「ソシャゲ×VRの没入感」で廃課金ユーザーを狙うスタートアップ企業
コネクティビティ

Social Gaming in VR Begins to Grow Up VR型ソーシャルゲームは
究極の没入感に課金する

スタートアップ企業が制作中のソーシャルゲームは、実質現実(VR)を用いて、従来のゲームのようなプレイヤー同士のつながりを再現しようとしている。 by Signe Brewster2016.08.02

プレイヤー同士のつながりは、常にテレビゲームの中心だった。1990年代にリビングで対戦型格闘ゲームを楽しんだプレイヤーは、2000年代になるとデジタル空間に自分の分身を作り、ヘッドセットで会話をしながらCall of Dutyで遊ぶようになった。実質現実の開発企業は、VRゲームでも同じことがいえる、とはわかっていた。しかし、ゲーム内のつながりをヘッドセット内にどう作るかまでは踏み込めていなかった。

カイト・アンド・ライトニング(本社米国ロサンゼルス)は、ある解決策を試そうとしている。実質現実のゲームメーカーとしてシードラウンドで250万ドルを集め、プレイヤーが戦いに飢えた赤ちゃんになる奇妙なソーシャルVRゲームの開発を計画しているのだ。

「ベビロン:バトルロワイヤル(Bebylon: Battle Royale)」は、ゲーム内のゲームだ。人類が不死の薬を発見し赤ん坊が年を取らなくなった世界が舞台だ。プレイヤーはコロシアムのような競技場で知名度を争ったり、戦ったり、口げんかをしたりする。共同創業者のイクリマ・エルハサンCEOは、ベビロンを「大乱闘スマッシュブラザーズ」や「ストリートファイター」になぞらえている。戦いの舞台となる競技場は、ベビロンの世界の中に存在し、プレイヤーはその世界を歩きまわり、ギャンブルやショー、乗り物などのアトラクションを楽める。

ベビロンは物語と双方向性を融合させている

ベビロンはプレイヤーが共有する世界だ。戦闘中の人も、観客も本物の人間である。街の中で他のプレイヤーと交流したり、競技場で戦っている人に武器を投げ込んだりもできる。社会的体験を軸に作られているのだ。

「世界構築と映画的な物語、世界の創造に深く踏み込むチャンスが巡ってきました。そうした要素はVRの世界にしか存在しないものです」とエルハサンCEOはいう。

VRにプレイヤー同士のつながりを持ち込もうとする試みは以前からある。オキュラスが作ったトイボックスは、共有空間で他のプレイヤーとともに、おもちゃを動かしたり形を変えたりできる。またAltspaceVRは、デジタル空間で訪問者の分身同士が出会い、会話ができた。ハイ・フィデリティやリンデン・ラボ(「セカンドライフ」の開発元)などの企業はより大きな夢を持っており、SF小説や映画に登場するような中身の濃い仮想世界を実現させようとしている。

ベビロンは、現在主流の家庭用ゲーム機のソーシャルゲームにより近い。普段ゲームをする人はその手のゲームの遊び方になじみがあり、少なくとも初めてVRのヘッドセットを手にとってみようという気になる可能性はある。

実質現実(VR)はコンピューターの画面よりもユーザーを別の世界に連れて行くには効果的だ、というのは、シラキュース大学のフランク・ビオッカ教授(人間とコンピューターのインタラクションの研究を専門としており、『Communication in the Age of Virtual Reality』(VR時代のコミュニケーション、未邦訳)の著者)。だが、ソーシャルな要素を組み込めば、ユーザーの没入感はさらに高まる。

「存在感がより高まります。仮想世界の分身の向う側に、現実の人間がいて、キャラクターを操作しているとわかれば、その世界とつながっている感覚がより一層強くなります」

カイト・アンド・ライトニングのエルハサンCEOとディレクターのコリー・ストラスバーガーは、2013年にカイト・アンド・ライトニングを創業する以前に映画業界で仕事をしていた。以来2人は、人気を集めたVR映画の「Senza Peso」をはじめ、事業パートナー向けに複数のVR作品を制作してきた。小規模のプロジェクトに数多く取り組んだことで、VRでうまくいくものとそうでないものをすぐに感知できるようになったと、エルハサンCEOはいう。

2人は、ゲームと映画の相互作用がVRにとって最適だと考えている。ベビロンは物語性と双方向性を融合させ、プレイヤーが自由に動きまわって探索できる、物語とゲームの継ぎ目のない世界として作られている。

ハイ・フィデリティやリンデン・ラボにはすでに独自の世界があるものの、複数のソーシャル世界がそれぞれ異なる環境を提供していく余地はあるとビオッカ教授は考えている。今のところ、カイト・アンド・ライトニングはベビロンの世界をユーザーが大きく変更できるようにするつもりはないが、ユーザーはゲーム内で自分の外見を変えるようには促されるだろう。

こうしたゲーム設計は、高い没入感をもたらす物語を損なわせない点で重要だ。ベビロンの世界がストーリーを語り、プレイヤーは世界に招かれるのだ。

「VRによって、今までになかった方法で物語を伝えられるようになったんです」(エルハサンCEO)