インターネットでビジネスを展開する企業は、非ラテン文字のインターネット・ドメイン名の扱いをめぐるシステムのバグのせいで、年間数十億ドルの損をしている。バグを修正すれば、ロシア語や中国語、アラビア語、ベトナム語、それにインドの諸言語を話す1700万人の人々をインターネットに呼び込めるだろう。
有効なインターネット・ドメイン名の維持管理を責務とする組織ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers、アイキャン)が支援する業界の主導的なグループによる最新の研究は、こう結論付けた。マイクロソフトやゴーダディ(GoDaddy)など多くのインターネット企業の代表者が参加するユニバーサル・アクセプタンス運営グループは、ソフトウェア開発者やサービス・プロバイダーに対して、ドメイン名や電子メール・アドレスのドットの右側にある文字列「トップ・レベル・ドメイン」を検証する方法を変更するよう、呼びかけている。
バグはICANNがトップ・レベル・ドメインの範囲を急激に拡大することを決めた2011年まで、明らかになっていなかった(参照“ICANN’s Boondoggle”)。2012年から2016年までの間に、トップ・レベル・ドメインの数は12から1200まで増加した。増加したトップ・レベル・ドメインには非ラテン文字、ウムラウト (¨)のような発音符号、ドイツ語のエスゼット(ß)のような合わせ文字なども混在して使うラテン語のアルファベット文字を特徴とする「国際化」ドメインが100個含まれる。最新の研究によれば、260万の国際化ドメイン名が新しいトップ・レベル・ドメインとして登録されており、その多くはロシアと中国の言語に集中している。
多くのWebアプリケーションや電子メール・クライアントは、ASCII(American Standard Code for Information Interchange)の文字で構成されている場合にのみ正しいトップ・レベル・ドメインと認識する。バグはメッセージの送信に加えて、オンライン・バンクの口座やソーシャル・メディアへのアクセスに必要な資格情報の認証で多く発生する。2016年、ユニバーサル・アクセプタンス運営グループはドットの右側に非ラテン文字を含む電子メール・アドレスのテストをしたところ、受け入れ率は20パーセント以下と判明した。
バグの修正、つまりドメイン名の検証でユニコードを認めるように基本的なルールを変更することは、比較的単純な作業だと、ユニバーサル・アクセプタンス運営グループのラーム・モハン議長は指摘する。ユニコードはより多くの言語が扱える、ASCIIとは別の文字エンコーディング規格だ。最新の研究では、問題を修正する経済的なメリットはコスト以上の価値があるとされている。電子商取引企業、電子メール・サービスさらに銀行を含むあまりにも多くの企業が、単純にシステムが新しいドメインを受け付けないことにいまだに気がついていないのだという。
しかし、状況は改善しつつある。2014年、グーグルはGメールのアップデートで、文字をASCIIに変換するための不便な応急措置に頼らずに国際化ドメイン名を受け付け、表示できるようにした。マイクロソフトはアウトルック・クライアントやクラウド・ベースのサービスを含めた電子メール・システムを国際化ドメイン名や電子メール・アドレスを受け付けるようにアップデートに取り組んでいる。
経済的な損失だけの問題ではない、と語るのは、マイクロソフトのカスタマー・アンド・パートナー・エクスペリエンスのプログラム責任者で、ICANNのユニバーサル・アクセプタンス運営グループのマーク・スヴァンキャレック副議長だ。「文字列がラテン文字を使っている人にとって意味不明」という理由だけで数百万の人々をインターネットから遠ざけてしまうのはマイクロソフトの使命に反することだ、と話す。
非ASCIIドメインの受け入れはインターネット活用を加速するだろう。今後インターネットにアクセスすることが予測される十億人の人々は自分たちの地域の言語だけを話したり書いたりしている人が多くを占めているからだ、とモハン議長は述べている。こうした人々にアクセシビリティをもたらすことは、インターネットの中心的な機能を維持する、基本的な前提条件にかかっているとモハン議長は言う。「問題は、非ASCIIドメインの受け入れるためのプログラムの修正はつまらない作業だということです。つまらないこそ、よりよいプログラムに置き換えるのは簡単なのですが」。