アップルの10億ドル基金はトランプの「製造業復活」に応えるか?
アップルが発表した先進製造プロセス企業への10億ドル投資は、トランプ大統領が掲げる米国の製造業復活と雇用創出につながるのだろうか。 by Jamie Condliffe2017.05.08
アップルのティム・クックCEOは、先進製造プロセスを手がける米国企業に投資する、10億ドル規模の新たな基金を発表した。
アップルの発表はドナルド・トランプ大統領には朗報と言えるかもしれない。トランプ大統領は米国でもっとも成功しているガジェット企業アップルに対して、もっと多くの製品を国内で製造するべきだと以前から主張してきた。米国産業の活性化を後押しする可能性のあるアップルの発表は、よいニュースのように聞こえる。もちろん、トランプ大統領によるアップルへの声高な批判の最大の目的は、新たな雇用の創出にある。
ロイター通信の報道によると、米国のサプライヤーに対して年間500億ドルを支払い、海外に2570億ドルのキャッシュを保有しているアップルにとって、10億ドルは取るに足らない金額だ。それでも、2013年にオバマ大統領が実行した先進製造プロセスに対する投資(新たな製造技術の開発を目的とした国立研究所の建設に当てられた)に匹敵するアップルの投資は、製造業に歓迎されるだろう。
アップルは投資計画の詳細について多くを明らかにしておらず、最初の投資先を5月下旬に発表すると述べるにとどめている。 具体的な投資先の推測を難しくしているのは、「先進製造プロセス」が、航空宇宙産業部品の3Dプリンティングから組み立てラインへのロボットの導入までを含む、広い意味の総称であることだ。
確かに、アップルは本業とは無関係の製造業へ投資できるだけの十分なキャッシュを持っている。それでも少なくともその一部をハードウェア製造の自動化に投じることは期待できるはずだ。アップルは過去にiPhoneを分解するリサイクルロボットを見せたことがあるが、分解を組み立てに転用できない理由はない。
基金の具体的な投資先がどこかはともかく、アップルの投資がトランプ大統領が熱望するような新たな雇用を生み出すことはいまのところなさそうだ。
あらゆる自動化と超高効率化を含む先進製造プロセスは、生産性の向上を確実にもたらすものだ。しかし、先進製造プロセスの導入は、製造業の雇用回復にはつながらない。ちょうど先月、工場や倉庫へのロボットの導入によって雇用が減少し、賃金が低下するという、労働市場へのショッキングな影響が明らかになった。もしアップルが製造業へ投資する本当の狙いがロボットの活用なら、労働者にとっては良いことではないのだ。
ティム・クックは今回の発表にあたって「製造業の雇用はその周りにサービス産業を生み、より多くの雇用を創出する」と語り、製造業を支援することの幅広い効果を強調した。
実際、製造業研究所(全米製造業者協会傘下の研究機関)は、工業製品が1ドル売れるごとに他の業種の売上に1.33ドルの影響を与えていると主張している。これはあらゆる産業のなかで、もっとも大きな乗数効果をもたらすものだ。アップルの投資がある限り、トランプ大統領の希望は十分叶うはずだ。
(関連記事:CNBC, “Manufacturing Jobs Aren’t Coming Back,” “Obama Push on Advanced Manufacturing Stirs Economic Debate,” “Actually, Steve Mnuchin, Robots Have Already Affected the U.S. Labor Market”)
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- ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
- MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。