禁じられたテクノロジー
聞いてはいけない7つの質問
セックスロボット、気候操作、真の医療費など禁じられたテクノロジー7つがリストに入った。 by Antonio Regalado2016.07.28
テクノロジーやテクノロジーに関する疑問で「これはヤバい」っていう話は何だろう?
マサチューセッツ州ケンブリッジにあるマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボで先週開催された「禁じられたテクノロジー」会議で発表した研究者は、セックス用子ども型ロボ、遺伝子操作による遺伝子ドライブ、上昇する気温から地球を救うための単純だが物議をかもす方法などを挙げた。
編集部でもいくつか追加して作ったのが、以下の「禁じられたテクノロジー」のリストだ。どの疑問も、道徳的または法律的な問題がある。また、疑問の解決法を探求する科学技術者や、生じるかもしれない危害を検討する団体間に、倫理上の対立を生むだろう。
気候は改変できるのか?
太陽光工学は21世紀の最重要テクノロジーになり得る。基本的アイデアは、二酸化硫黄を大気上層に放出して太陽光の一部を地球外へ反射し、気温上昇を打ち消す。ハーバード大学のデヴィッド・キース教授によれば、このテクノロジーは費用がかからず実行が簡単で確実に産業革命以前の気温水準に戻せる。だが、オゾン層を破壊するのではないか、という疑問は残る。大気圏内での小規模な試験で確認できるが、そのような試験が一切実施されていないのは、地球を温暖化から修復しようとして、さらに多くの汚染物質を大気に注入することになるのを、人々が心配するからだ。「無知のままでいることを人類は集団的に選択したのです。私たちには真剣でオープンで現実的な国際研究プログラムが必要なのですが、何もありません。それは政治的な臆病さなのです」とキース教授はいう。
参考ページ:「地球温暖化を止める安価で簡単な計画」
小児性愛者にセックス用子ども型ロボを与えるべきか?
少数の、非常に少数の研究者たちは、子どもサイズのセックス・ロボットや実質現実が小児性愛者の研究に役立ち、何が彼らを性的に興奮させるのかを知り、もしかすると安全なはけ口を与えられるかもしれない、と考えている。だが小児性愛者という人間の集団についてはほとんど何もわかっておらず、その研究も難しい。米国では、研究者が小児性愛者を警察に通報することが義務づけられている。「ロボットを治療用に使えるかどうかを知りたいのです」と、MITメディアラボのロボット倫理学者、ケイト・ダーリング研究員はいう。「使えるかどうかは全くわかっていませんし、非常に強い社会的偏見のせいで研究もできないのです。高品質のセックス・ロボットは社会がこれを話題にするよりも急速に到来しつつある」という。
参考ページ:「仮想現実はいかに性犯罪者の治療に役立つか」
銃の公衆衛生コストはいくらなのか?
銃は公衆衛生の脅威だろうか? そうなのは明らかだ。しかし、米国のスター級疫学者の本拠地である疾病管理予防センター(CDC)に、銃による暴力の本当のコストはいくらなのか尋ねてはいけない。1996年、議会はCDCに対し銃器の法的管理につながる可能性のある一切の研究を禁止した。
参考ページ:「2年前に解禁されたにもかかわらず、CDCはなぜ今も銃による暴力の研究をしないのか」
費用分の価値がある医療テクノロジーはどれか?
米国の医療費は高く、薬価は高騰している。しかし、ある医療テクノロジーの費用対効果の高さが本当はどれほどなのか、わかったら大したものだ。オバマケアの一環として、ホワイトハウスは新たな連邦研究機関を作り、どの治療法が最も効果があるかを研究するため、昨年4億9100万ドルを惜しげもなく投入した。しかし医療業界や医師会からのロビー活動のおかげで、この大盤振る舞いは条件付きになった。コストについて一切いかなる研究もしてはならないのだ。
参考ページ:「医療にはムーアの法則が必要だ」
科学知識の利用は完全無料であるべきか?
誰でも、地球上どこでも、公的資金による科学研究の成果を利用できるべきだろうか? それがロシアの海賊版サイト「サイハブ」の背景にある考えで、5500万件近くの論文が蓄積され、その多くは出版社の有料コンテンツに侵入して取り出された。サイトを作ったカザフスタンの学生アレクサンドラ・エルバキャンは、逮捕の恐れからアメリカやヨーロッパに旅行できないという。だがこのサイトを閉鎖することも不可能だとわかった。「今すべきことはただひとつ。合法化すること」だとエルバキャンはいう。
参考ページ:「サイハブの背後にいる怒れる理学生」
遺伝子操作で種全体を作り変えられるか?
「遺伝子ドライブ」は、遺伝子編集技術のクリスパー(CRISPR)を使って、遺伝的特徴を野生動物の集団全体に拡散する、急進的で新しい方法だ。マラリアを媒介できない蚊や、自滅する侵入生物種を考えてみるとよい。だが今回このテクノロジーに異を唱えているのは科学者だ。このテクノロジーは実験室で安全に試験することさえできず、少なくとも入念な管理と完全で透明な情報公開が必要だといわれる。いったん実験事故で野生動物に遺伝子が拡散すれば、人々の科学への信頼が永久に損なわれてしまうと恐れているのだ。「完全に禁じられたこと、間違いなくすべきでないことの他に、おそらくもっと障壁を設けてできなくしたほうがいいことがあります」と、メディアラボと共同研究している合成生物学者のケヴィン・エズヴェルト助教授はいう。
参考ページ:「進化を混乱させるテクノロジー、遺伝子ドライブの秩序を保つ倫理学者」
スマホ勝手に電波を発信して通信しているのか?
コンピューターやスマホは、持ち主が指示したとおりのことをしているだろうか? それとも、クッキーやコード、アラートが詰め込まれ、誰か他人の命令に従っているのだろうか? 機内モード中でさえ、最近のモデルのiPhoneは電波を出していると指摘するのは、内部告発者のエドワード・スノウデンで、米国国家安全保障局(NSA)による米国民の携帯電話の監視に注目を向けさせた。人知れず発信される電波は、紛争地帯で取材するジャーナリストを危険にさらすことになると、スノウデンは語る。そのため、技術者のアンドリュー・フアンと共同でスノウデンが開発しているジャーナリスト向けの新しいデバイスは、iPhoneに取り付けると電波信号を送信しているかどうかがわかる。スノウデンによると、この場合に法律や慣行で禁じられているのは、ユーザーにとって本当に秘密が保て、国家の目から保護される通信テクノロジーだ。
参考ページ:「スノウデンが設計する、あなたのiPhoneの電波がスパイ活動をしていれば警告するデバイス」
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- アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
- MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。