モバイルのデータ通信量が急増しているが、さまざまなのテクノロジーの進歩により、今日のスマートフォンや無線モバイル端末の利用方法は今後も変化し続ける。高解像度の映像や完全没入型の3D環境が使われようとしているのだ。
ブルックリンのニューヨーク大学無線研究所(NYU Wireless lab)では、学生が検証している次世代型電話の試作品は都会で人ごみの中を移動しながらでも10Gbpsの超高速データ転送が可能だ。また、先日サムスンは、時速25kmで走行中の自動車が、基地局といわる携帯電話の送受信機の電波の到達範囲を出たり入ったりする場合にも、1Gbpsで通信を維持できると証明した。
どちらも、現在販売されている携帯電話のテクノロジーで達成できる伝送速度の100倍以上を実現しているのだ。
こうした脅威的性能を示す事例が登場したのは、7月に米国連邦通信委員会(FCC)が従来の無線通信用の数倍に及ぶ大量の高周波スペクトル(高周波数帯)を解放したおかげだ。また、ホワイトハウスが発表した、4億ドル規模の研究活動のおかげでもある。
次世代の通信テクノロジーは、最終的には「5G」規格として策定され、現在の「4G LTE」規格と比べて、40倍以上高速なインターネット接続と、世界中で4倍以上のサービスエリアを実現すると見られる。
5Gは「ミリ波」無線スペクトルである24GHz以上の波長を利用する。7月中旬のFCCの決定により、米国はミリ波を民間向けに大量使用する最初の国となる。もともとはレーダーシステムや軍事システムで使われていた周波数なのだ。
電波は、周波数が高いほどより大量のデータを運べる。しかし、高周波は建物、木の葉、雨にさえも、妨害されやすい欠点がある。そのため、モバイル通信にミリ波は使いにくいとされていた。(ミリ波を使う既存システムもあるが、見通し線上に障害物がない、固定された2地点間の無線接続に使われている)
しかし信号処理やチップ、アンテナのテクノロジーが進歩し、サムソン、AT&T、ベライゾン、エリクソン等の企業が、次世代のモバイル接続にミリ波を使おうとしている。
スタートアップ数社もミリ波で新たなビジネスモデルを生み出そうとしている。そのうちのひとつスターリー(Starry)は、固定式の装置を対象として、ボストンにて家庭用インターネット接続サービスのベータテスト中だ。
ミリ波の信号は、送信機と受信機の間にある物体に遮断されるという最大の問題がある。ニューヨーク大学などによる実演では、この問題への対応方法が示された。チップや小型の回路基板上に並べられた極小のアンテナで、信号を特定の方向へ「誘導」するのだ。この手法は「フェーズドアレイ(位相配列)」と呼ばれており。たとえば、サムスンはすでにアンテナ32個からなるフェーズドアレイを内蔵した携帯無線端末の試作品を製造している。サムスンやエリクソン、ノキアも、試験用の装置の準備を進めている。
ニューヨーク大学で無線研究の責任者を務めるテッド・ラパポート教授は「有力な通信関連企業は、大小を問わず、ミリ波通信に多大な労力を注いでいます。業界中に成果が現れており、ミリ波通信の未来が刻々と近づいていると実感できるでしょう」という。
ミリ波通信テクノロジーを採用した最初の携帯電話が市場に登場するのは、2~5年後になりそうだ。ラパポート教授は「無線のルネッサンスと呼んでいます。たくさんの出来事が同時に発生し、世界は数年前には誰も想像し得なかったほど急速に変化するでしょう」という。
ミリ波の無線テクノロジーは、マイクロチップの目覚ましい進歩が支えている。第1に、チップが小さくなり、バッテリーの消耗が少なくて、大量のデータを処理できるようになる。第2に、アンテナの役割を果たす物質の第2層で覆うと、信号の損失やエネルギー消費が最小限で済む。
製造手法の進歩によって、一般的なシリコンにも高度な機能を実現できるようになち、安価な消費者用機器へと道を切り開く、というのはインテルのケン・スチュワート主任技術者だ。
「モバイル 端末上で、消費者はかつてないほど多くの体験ができ、高解像度の映像を視聴するのです。電話の画面を見ながら『Pokémon GO』をプレイするのではなく、リフレッシュレートが高く美しい映像を見ながら完全没入型の3D環境でプレイすることになります」
無線データの需要が急速に成長し、ミリ波通信の動きはどんどん加速している。何十億もの人がモバイル端末の性能向上に期待しているからだ。さらに、ネットワーク接続可能な自動車やスマートグリッドといった機械分野からの需要も高まるだろう。