KADOKAWA Technology Review
×
Clean Technology Innovation Is in Decline

米国の自然エネルギー関連特許、2年連続で減少

米国では、最近の2年間で自然エネルギー関連の特許取得件数が伸び悩んでいる。研究開発の連邦予算が削減されれば、米国の自然エネルギーのイノベーションに、深刻な影響を及ぼしかねない。 by Jamie Condliffe2017.04.27

ここ2年で、自然テクノロジーのアイデアは減り続けている。

この事実は少なくともブルッキングス研究所が発表した新たな研究で指摘されており、2014年以来、アメリカではクリーンエネルギーの特許の取得件数が減少しているという。2001年から2014年の間には1年ごとに新たに取得される特許の数が2倍に増えた一方で、2014年以降は9%も減少している(下記の表を参照)。詳しいデータについては、こちらのインタラクティブツールを使って閲覧できる。

一体何が起きているのか? 一例を挙げると、新たなクリーンエネルギー・テクノロジーの開発に与えられる助成金の額が少ない現状がある。電池や太陽光パネル、風力タービンや原子炉を新たに開発して利益を上げるよりも、たとえば消費者向けのテクノロジーを開発するなどして利益を上げほうがずっと簡単なのだ。しかし、ブルッキングス研究所のマーク・ミューロ上級研究員(政策担当部長)は、特許の取得件数の減少にはオバマ前大統領の復興・再投資法との関連があるかもしれないと指摘する。2009年に施行された景気対策法では、270億もの予算がエネルギー効率や再生可能エネルギーの研究に注ぎ込まれたが、今になってそれが尽き始めているのだ。

特許の取得件数だけを考えると、このニュースで特に心配することはない。2年間で9%の落ち込みなら、すぐに回復するいっときの現象のはずだ。とはいえ、現在の米国の政治情勢を考えると、このニュースから懸念が生じる。トランプ政権が提案している大幅な予算削減により、連邦政府によるエネルギー研究や米国エネルギー省の大型事業、エネルギー先端研究計画局(ARPA-E)が完全に廃止される予定だからだ。ミューロ上級研究員は、トランプ政権の予算が成立すれば、イノベーションの衰退は「深刻な問題を引き起こす」可能性があるという。

クリーンエネルギーの研究を助長する連邦予算が投入されなければ、特許の取得件数が増加し始めるとは考えにくいし、商品化される新たな自然テクノロジーの数も増えにくくなるだろう。こうした負の連鎖が起きれば、地球の平均気温上昇を産業革命前と比較して2℃未満に抑えるパリ環境協定の目標値の達成は非常に難しくなる。

今の状況を変えるには何ができるのか?は悩ましい。理想的には、MIT Technology Reviewのジェイソン・ポンティン編集長が主張するように、アメリカが研究開発に費やす予算を大幅に増やすことだ。しかしもっと現実的な話をすると、トランプ政権がエネルギー省の予算削減を実施しないことこそ、期待できる最善の結果だろう。なぜならエネルギー省の予算が削減されなければ、米国エネルギー省は応用研究に投資を続けられるし、ARPA-Eによる大型プロジェクトへの援助も続けられるからだ。

しかしミューロ上級研究員は、トランプ政権がクリーンエネルギー・イノベーションへの予算を廃止したからといって、すべての望みが絶たれる訳ではないと指摘する。州単位では大学でのエネルギーの研究を進められるし、これまで施行していたクリーンエネルギーに関する厳しい規定を廃止する必要はない。たとえば、都市単位でもクリーンエネルギーの開発に特化したイノベーションの拠点づくりをやめる必要はない。そしてうまくいけば、行政の取り組みと同時に個人単位でも、クリーンエネルギーに関する名案が増えてくるかもしれない。

(関連記事:“資本主義の悪行,” “トランプ政権、初の予算提案で気候変動対策をぶち壊し,” “MIT編集長が考える、アメリカを再び偉大な国にする方法”)

人気の記事ランキング
  1. Why handing over total control to AI agents would be a huge mistake 「AIがやりました」 便利すぎるエージェント丸投げが危うい理由
  2. OpenAI has released its first research into how using ChatGPT affects people’s emotional wellbeing チャットGPTとの対話で孤独は深まる? オープンAIとMITが研究
  3. An ancient man’s remains were hacked apart and kept in a garage 切り刻まれた古代人、破壊的発掘から保存重視へと変わる考古学
タグ
クレジット Photograph by CHARLY TRIBALLEAU | Getty
ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る