動物の人工子宮実験で新記録 未熟児の生存率と中絶時期に影響
生命の再定義

Animals Set Survival Record Inside Artificial Womb 動物の人工子宮実験で新記録 未熟児の生存率と中絶時期に影響

羊の胎児が、羊水を満たした袋の中で4週間成長し、袋から取り出されて「誕生」した。未熟児の生存率を高めるため、3年後には臨床試験が始まるかもしれない。 by Emily Mullin2017.04.27
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フィラデルフィアの医師が、羊の胎児を子宮のようなプラスチック製の袋の中で数週間に渡って生存させることに成功した。人間の未熟児の命を救う上で技術的飛躍だが、同時に胎児がどれくらいの時期に子宮外に出されて生存できるかの判断基準に疑問を生じさせる研究だ。

進歩した保育器といってもよいこの装置は、無菌で温度調節されたプラスチック製の袋に羊水が満たされ、その中で動物の胎児を生き続けさせることに成功した。

フィラデルフィア小児病院の医師は、羊の胎児を透明な袋に入れ、へその緒を機械に接続して酸素が胎児の血液に供給されるようにした。子羊自身の心臓が血液を循環させた。

8頭の子羊が装置の中で生存した羊の胎児の在胎期間4週間は、人間の22週もしくは23週(人間の胎児が子宮外で生存できるもっとも早い出産のタイミング)に相当し、完全に成長した胎児は40週目に産まれる。

羊の胎児は、動くことができ、目も開いていて、また正常に飲み込むこむ能力もあり、研究者が袋から取り出して「誕生」した。

実験では、羊の胎児は正常に発育し、肺の機能も「正常分娩の子羊と基本的に同じレベルに追いついていた」とフィラデルフィア小児病院のエミリー・パートリッジ主任研究員はいう。パートリッジ主任研究員の装置についての報告は、25日発行のネイチャー・コミュニケーション誌に掲載された。

実験の成果は、人工子宮が胎児の生存能力の限界(つまり、胎児が母親の体外で生存できる能力)を拡大できるかについて疑問を生じさせる。米国では、43の州が、胎児が(母親の体外で)生存できる時期に達した後の中絶を法で禁じている。

記者との電話取材で、フィラデルフィア病院付属小児外科学研究所のアラン・フレーク所長は、機械では妊娠全期間の9カ月を通して胎児を育てられないと述べた。

フレーク所長は今のところ、科学技術で妊娠初期の胎児の発育を代行することはできない、という。「妊娠初期の段階では科学技術では複製できない発育の必要要素がありそうです。機械で代わりにすれば、発育異常をつくることになりかねません。私たちは障害のある未熟児を増やすことを目指しているわけではありません。それを防ぐのが目的なのです」

医師がこの装置を22週に満たない胎児を救うために使おうとすることについて、フレーク所長は「非常に危惧します」という。

米国では10件に1件の出産が未熟児か、あるいは予定日より少なくとも3週間早い出産だ。そのうち、約3万件が26週以前の非常に危険な早産だ。このように早い時期に生まれた子供は肺の異常や身体的な発育、知能の発達の遅れの危険が高まる。

現在のところ、未熟児は保育器の中で温められ、菌から保護されて育てられる。パートリッジ主任研究員は、女性の子宮を模したこの新しい装置に胎児を入れることで、胎児の発育を完了させ、胎児の死亡や長期にわたる障害の危険を低減できるかもしれない、という。

研究者は長年、人工子宮または「エクトジェネシス」の開発に取り組んできた。1996年には、日本の順天堂大学の桑原慶紀教授がヤギの胎児を、羊水を模した液体を満たしたプラスチック製の箱の中で育成することに成功している。しかし、これまでの実験では、血液の循環を機械のポンプに依存していたため、動物を痛めてしまうことがあった。

フレーク所長は、研究チームは米国食品医薬局(FDA)と協議を重ねており、2~5年以内には新生児病棟でこの装置が試験されるだろうという。

装置を開発した研究者は、この液体の入ったプラスチック製の容器を、もう少しこれまでの保育器に近い形にし、子どもの親が驚かないようにするつもりだ。「胎児が袋の中に入って壁からぶら下げられているように見えてはいけませんので、人間用の装置はそのような見た目にはなりません」とフレーク所長はいう。最終的なシステムは「親に優しい」ものになる。