MIT教授陣が関わる
金属3Dプリンターが
ついに登場
思い通りの形に金属部材を生成できる3Dプリンターは、まだ存在しない。MITの4人の教授が関わるスタートアップ企業デスクトップ・メタルは、自社の装置で、金属部品を「プリント」する手頃で実用的な手段を近いうちに提示できると考えている。 by David Rotman2017.04.28
最初の製品投入まで2カ月を切る中、デスクトップ・メタルのリック・フロップCEOは興奮気味に3Dプリンターの中核部分を見せてくれた。大型のマイクロ波炉やさまざまな小さな金属物体もテーブルに並んでいる。閉ざされた扉の向こうでは、工業デザイナーのチームが共用の作業デスクの周囲に座り、大きな画面に見入っている。背後の壁には、デスクトップ・メタルの野心的な製品の予想図の数々が貼られている。製品デザインや生産に広く使える程度に安価かつ高速で金属部品を成形できる3Dプリンターだ。
デスクトップ・メタルは、主なベンチャー・キャピタルやゼネラル・エレクトリック、BMW、アルファベットといった会社のベンチャー部門から1億ドル近くを調達している。創業者には、MITの材料科学学部の責任者やエマニュエル・サックス教授など高名なMIT教授が4人いる。サックス教授は、1989年に3Dプリンティングのオリジナル特許のひとつを申請した人物だ。しかし潤沢な資金と高い専門性を備えながらも、金属部品の製造法に革新をもたらし、製造業を大きく変える目標を達成できる保証はない。
フロップCEOが広く開放的な作業スペースを動き回る間、その興奮と熱意の中に懸念が垣間見れた。最終的なプリンターはまだないのだ。スタッフは忙しく装置をいじくり回し、組み立て済みのテスト用部品が散らばっている。進展はあるが、時間が迫っているのも確かだ。正面ドアとエントランス付近のスペースは空いていて、立ち入り禁止のテープが張られている。ここには間もなく、将来の展示会で使う会社のブースの模型が設置される予定だ。
デスクトップ・メタルの研究がうまくいけば、30年以上に渡って3Dプリンターの開発者の手を煩わせ、テクノロジーの本格的導入を大きく削いできた困難な課題が解決されることになる。大々的な宣伝と熱心な推進派の存在にもかかわらず、3Dプリンティングは多くの面で期待外れに終わっている。
愛好家や自称「メイカーズ」は、比較的安価なプリンターを使って、プラスチックから驚くほど複雑で精巧な形状を生成している。製品の試作モデル作りに便利だと感じているデザイナーやエンジニアもいる。しかしポリマーで部品をプリントしても、特殊な補聴器や歯のインプラントなどの限られた用途以外、製造現場ではあまり使い道がない。
金属の「3D印刷」もできるが、実際には難易度が高く、費用もかかる。先進製造プロセスに取り組むGE等の企業は、非常に高価な特殊高出力レーザーで高価値の部品を数点単位で生成している(「2013年版ブレークスルー・テクノロジー10」の「付加製造」を参照)。しかし金属をプリントできるのは、装置やレーザーの動力源、それらを操作する高度に訓練された技術者に数百万ドルを投資できる会社に限られる。製品設計や開発プロセスで多様な金属部品をプリントしたい要望に対して、簡単に利用できる選択肢はいまのところ存在しない。
上記のような3Dプリンターの欠点は、推進派が長い間熱狂的に求めながら実現していない構想を示している。コンピューターの数値計算に基づくデザインを実現したり、テストや改善が可能な試作品をプリントアウトしたりすることが求められている。さらに最適化した設計のデジタルファイルを使って、アイデアを思い付いたときに3Dプリンターで同じ素材から実際の製品や部品を生成したい要望もある。金属部品を無理のない予算で素早くプリントできることは、この構想を実現する上の重要な一歩だ。
そんなプリンターがあれば設計の自由度が増し、他の方法では困難な、複雑な形状の部品や装置(たとえば、複雑なアルミニウムの格子や内部に空洞のある金属物体)を作成し、テストできるようになるだろう。エンジニアや材料科学者が、素材の多様な組み合わせを堆積させて(たとえば、非磁性金属の隣に磁性金属をプリントアウトするなど)、新しい機能や性能のある部品を創造すると考えられる。さらに、どれだけ大量に生産してもプリントのコストが変わらないため、大量生産の経済が再定義されるかもしれない。工場の規模や予備在庫の必要性(高速で簡単にプリントできるなら、多くの部品を在庫で抱える必要があるか?)、特殊製品に合わせた製造プロセスなどについて、生産者の考え方も変わっていくだろう。
そこで近年、部品製造の新手法として3Dプリンティングを活用する競争が起きている。ストラタシスや3Dシステムズなどの老舗サプライヤーは、製造現場での実用に耐えうる高速の最新装置を市場に投入している。HPは昨年、3Dプリンターの新製品を発売したが、熱可塑性材料として広く使われるナイロンで製品の試作や生産ができると宣伝している。GEは昨年秋、金属部品の3Dプリンティングを専門とするヨーロッパ企業2社に10億ドル以上を出資した。
しかしデスクトップ・メタルの真の競争相手は、増え続ける3Dプリンティング企業ではないかもしれない。理由のひとつは、HPやストラタシス(デスクトップ・メタルの出資者)、3Dシステムズのプリンターで主に使われるのはさまざまなプラスチックだからだ。フロップCEOの会社が自社製品での使用を想定しているいろいろな金属ではないのだ。さらにGEの高性能マシンは、デスクトップ・メタルが目指している市場とはほとんど重複しない。したがって真の競争相手は、既存の金属加工テクノロジーになる可能性が高い。iPhoneの超薄アルミケースの製造手法のような自動加工技術もライバルだ。また金属 …
- 人気の記事ランキング
-
- Bringing the lofty ideas of pure math down to earth 崇高な理念を現実へ、 物理学者が学び直して感じた 「数学」を学ぶ意義
- Promotion Innovators Under 35 Japan × CROSS U 無料イベント「U35イノベーターと考える研究者のキャリア戦略」のご案内
- The 8 worst technology failures of 2024 MITTRが選ぶ、 2024年に「やらかした」 テクノロジー8選
- Google’s new Project Astra could be generative AI’s killer app 世界を驚かせたグーグルの「アストラ」、生成AIのキラーアプリとなるか
- AI’s search for more energy is growing more urgent 生成AIの隠れた代償、激増するデータセンターの環境負荷