米国では毎年約600万人が骨折し、患部は治癒するまでグラスファイバーや石膏の重い包帯で覆われる。この治療法は100年近く変わっていない。
だが、とうとうギプスが新時代に突入だ。3Dプリンター製のギプスは隙間のある格子状のプラスチック設計が目新しく、患者ひとりひとりにカスタマイズされる。耐水性があり、より快適で、骨の治癒を早める可能性もある。3Dプリンター製ギプスは、個人専用に3Dプリンターで作られる医療用具を目指した大きな動きの一環だ。
世界中のスタートアップ企業が、新しいテクノロジーに取り組んでいる。今年のはじめ、工学部の学生だったザイド・ムサ・バドワンが友人とメキシコで設立したメディプリントは「ノバキャスト」というギプスのメーカーだ。また数週間前には、エクスケルト(本社スペイン・ジローナ)のギプスが、「レッド・ドット・デザイン賞」(有名な国際デザインコンペで与えられる)を受賞した。
3Dプリンター製ギプスのコンセプトは比較的わかりやすい。スキャナーで折れた手足の詳細形状を取得し、設計用ソフトウェアで個人に合わせたギプスを作る。ギプスはプリンターで、通常は2つ割りで製造し、手足が治癒するまで固定する。
ギプスをプリンターで作れば、手作業で成型する際のバラツキがなくなり、多数の丸い開口を持つプラスチック構造のおかげで、軽量で通気性が生じ、快適性と衛生状態は明らかに改善される。
開口部は別の理由でも重要だ。医師も患者も負傷した手足の患部に触れる。シーダーズ・サイナイ病院整形外科キャロル・リン医師は、開口部があることは皮膚の状態を診たり傷口の包帯を取り替えたりするのに便利で、外来通院の回数を減らせるかもしれないという。特に高齢の患者は皮膚が「ティッシュペーパーのように」薄いので有効であり、この設計なら医師が患部を超音波などのテクノロジーで刺激し、骨の治癒を早められる場合もあるとリン医師はいう。
3Dプリンター製ギプスはまだどれも市販されていないが、エクスケルトは現在、自社製ギプスを2人の患者に装着して試験中だ。9月にはCE(スペインで医療行為を監督する官庁)と共同で臨床試験を開始する。エクスケルトはスペインの保険大手4社中の2社と契約を締結済みで、ジョルディ・バルダヒCEOはこのギプスが6カ月以内に病院に納入できると見込んでいる。ギプスは高価(2000〜5000ドル)だが、生産量が増えればコストは下げられるとバルダヒCEOはいう。
医師は3Dプリンター製ギプスを医学で既に定着しているテクノロジーの最新の応用と見ている。外科医は患者の解剖学的特徴を3Dプリンターでモデル化し、よりよい手術計画を立てるのに使える。患者はプリンターで作ったカスタムメイドの人工装具や、人工膝関節などの形で恩恵を受けるだろう。スマーテック・カーケッツは、3Dプリンター・テクノロジーの医療向け市場は、2014年の4億9800万ドルから2024年には58億ドル以上に拡大すると予測している。
3Dプリンター・テクノロジーの価格が下がれば、より多くの用途に道を開き、ギプスのように50年以上も変化していなくても、さらに多くの医療製品を改善する方法を提供するだろう。
「私たちが今持っているテクノロジーの限界を受け入れてしまうのは、私たち自身がそれらを使って訓練され学んできたからです。よいテクノロジーですが、完璧ではありません。どれだけ改善できるかを知らないだけなのです」(リン医師)
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クレジット | Images courtesy of Xkelet |
- キャサリン カルーソ [Catherine Caruso]米国版 編集部インターン
- MIT Technology Review編集部のインターンです。人間を行動的にして、生活を改善するテクノロジーに関心があります。機会があるときはスポーツについての記事も書いています。この秋にMITのサイエンスライティングの修士講座を卒業する予定です。