グーグルが今年1月、32億ドルをかけてネストラボを買収したことで、IoTは一躍注目を浴びた。それまでぼんやりとしか理解されていなかった、日頃目にするモノをインターネットにつなぐ価値がどれほど大きいのか、グーグルの投じた驚異的な金額で明らかになったのだ。
2010年に元アップルのエンジニア(ネストラボの共同創業者は、元アップル副社長でアイポッドを発案・開発したトニー・ファデル)が設立したネストラボは、目立たない存在だったサーモスタット(米国では、室内の冷暖房を集中制御できる住宅が多く、設定した温度に合わせて冷暖房を稼動させ、室温を自動調整するサーモスタットが普及している)を、インターネット接続機能を持つ、洗練された機器へと変身させた。ファデルによれば、米国では年間1000万個以上のサーモスタットが販売されている。モルガン・スタンレーの推計によれば、今年までにネストラボは、月間10万台のサーモスタットを販売する規模にまで成長している。
販売価格が1台249ドルという悪くないビジネス(プログラムで制御可能なデジタルサーモスタットの相場は100〜300ドルで、ネストラボの製品は高額の部類に入る)だが、もっと興味深いのは、昨年5月にテキサス州で始まった制度だ。オースティンの市営電力会社オースティン・エナジーはネストラボに料金を支払い、電力の卸売価格が最も高騰する夏の猛暑時(米国では州単位で電力の自由化が進んでおり、配電会社と小売会社との間で実施される、需給バランスに基づくオークションで卸売価格が決まる。テキサス州の場合、人口増に伴う電力需要の増加に供給能力が追い付かず、冬の寒波や夏の熱波で電力需給がひっ迫し、卸売価格が高騰する状況が続いている)に、ネストラボのサーモスタットを使っている各家庭のエアコンの出力を遠隔操作で落として節電できるようにしたのだ。
電力会社にとって、このような需要応答(デマンド・レスポンス、電力需要増に対し、発電所の増設などで電力供給量を増やすのではなく、需要側の電力消費を変動させて安定供給を図る手法。たとえば、時間帯ごとに電気料金を変えて、利用者を負荷の低い時間帯に誘導したり、電力削減に応じた利用者に対価を支払ったりする方法がある)は長らく、スマートグリッド(通信制御で電力の需給バランスを最適化する次世代送電網)実現の切り札になると考えられてきた。電力使用のピーク時に供給量を抑えられれば、コストがかさみ環境汚染にもつながるバックアップ発電所を稼働させずに済むからだ。
需要応答はよくできたシステムだ。ネストラボのサーモスタットも、普通は分けて考えられがちな電気料金と電力需要のコントロールを巧みに組み合わせている。消費者はエアコンや電気ヒーター、電気式暖炉の使い方次第で、室温はいくらでも上げ下げできる。だ …