2014年7月25日、生まれたばかりのカリーナには明らかな異常があった。助産師が指差すあごの右側にこぶがあったのだ。医師ですら初めはこぶの正体がかわからなかったが、すぐに悪性腫瘍と判明。その後1年半の間に、カリーナは8クール(投与週と次の投与週までの間隔の1つのセットにする単位)の化学療法と複数回にわたる手術を受けることになった。
2015年10月、何度目かの手術後、腫瘍がまた大きくなり出したとき、両親のジョーとクリスティーはもう打つ手はないと思った、という。放射線治療も考えたが、脳に障害を負う可能性が非常に高かったのだ。放射線科医からは、まずはどんな実験薬でもいいから試してみるべきだと助言を受けた。
腫瘍の遺伝子を検査すると、2つの遺伝子が異常な融合をしているとわかった。融合遺伝子が、がんの増殖信号を出しているようなのだ。カリーナの腫瘍専門医であるヌムール小児科病院のラマムーシー・ナガスブラマニアン部長(血液/腫瘍科)は、融合遺伝子によって作られたタンパク質を阻害する医薬品が、成人を対象に臨床試験中であることを見つけ出した。ナガスブラマニアン部長は、米医薬品会社のロクソ・オンコロジーと契約し、米食品医薬局(FDA)に対し、小児の臨床試験の実施を共同で求めた。12月、カリーナは小児用臨床試験に参加する最初の患者となる。
それから1カ月間、カリーナの両親は、腫瘍が縮小していくのを目の当たりにした。治療が始まったときにはくるみほどの大きさだったがんは、28日後にはほとんどなくなっているようだった。カリーナのがんは完治したわけではなく、がんはいつ再発するとも限らない。だが、薬の効果が出ている限り、今後も投与は続けられるだろう。
「この治療のおかげで、やっと幸せな親子の時間を過ごせるようになりました」と父親のジョーはいう。(個人のプライバシー保護のため、当事者の名字は公表されていない)。
カリーナのようなケースは、患者の生活環境、既往歴やライフスタイルを考慮に入れつつ、患者の遺伝子の個別の差異に注目したことで成功した好例だ。「適確医療」は、ひとりひとりの健康状態と多くの情報を合わせて把握し、より効果的な標的療法を指す言葉として広く使われている。適確医療は、なるべく多くの患者に合うように一般的な治療を重点的に施す現在の医療モデルからはだいぶ異なるが、ホ …