世界一高価な遺伝子療法処方薬、需要不足で販売中止
世界一高価な遺伝子療法処方薬「グリベラ」は、今年9月を最後に販売中止になることが決まった。希少疾患の治療に効果のある遺伝子治療薬はそもそも需要が少ないとはいえ、価格設定を誤ればそもそも患者に選ばれない問題を浮き彫りにした。 by Emily Mullin2017.04.25
西洋初の遺伝子療法を開発した企業が、自社の先進的な治療薬を、需要不足のため、市場から引き上げる。
「グリベラ」は、数ラウンドにわけて実施される治療で、ラウンドあたり100万ドルの費用がかかる、史上最も高価な処方薬だ( “The World’s Most Expensive Medicine Is a Bust”参照)。グリベラにはリポタンパク質リパーゼ欠損症(1型高リポタンパク血症、代謝関連の希少疾患)を修正するための遺伝子を持った、遺伝子操作ウイルスが含まれている。
ヨーロッパの医薬品規制機関がグリベラを承認した2012年は、挫折と安全性の問題を繰り返してきた遺伝子療法分野にとって、大きな節目の一歩になった。しかし、治療の需要の少なさと、効果への疑問は、グリベラ製造元のユニケア(本社アムステルダム/マサチューセッツ州レキシントン)を悩ませていた。
ヨーロッパの薬剤価格に詳しいマサチューセッツ工科大学(MIT)バイオメディカル・イノベーション・センターのケイシー・クイン研究員(ヘルスエコノミスト)は「単に費用が1万ドルかかることが問題だったのではありません。1万ドルの価値があると示すような、基盤となる知見が十分にないまま市場に出てしまったのが問題なのです」という。
ユニケアは今週、10月に期限切れ予定の、グリベラのヨーロッパでの流通承認を更新しないと発表した。ユニケアは期日までは、グリベラを患者が利用できるようにする。
ユニケアのマシュー・カプスタ最高経営責任者(CEO)は声明で「この薬剤の使用は非常に限られており、弊社は、今後数年間で患者の需要が著しく増加すると見込めません」と述べた。
クイン研究員は、グリベラの失敗が他の遺伝子療法の苦難の前兆ではないと考えているという。ただ将来、このような治療法がどのように価格設定されるのかの問題が渦巻く中で、市場の落胆的な反応が現れているともいう。
今年は、複数の遺伝子療法製品、たとえばスパーク・セラピューティクスが開発した遺伝性失明のための治療法、ノバルティスとカイト・セラピューティクスが発展させた新形態のがん治療「CAR-T療法」などが、米国米国食品医薬局(FDA)の承認を目指して、審査を受ける予定だ。
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- ピッツバーグを拠点にバイオテクノロジー関連を取材するフリーランス・ジャーナリスト。2018年までMITテクノロジーレビューの医学生物学担当編集者を務めた。