4歳児のベケット・エドワーズくんは、すでに数多くの遺伝子検査を受けてきた。しかしエドワーズ一家は答えを得られずにいる。
両親のエリックとトリシア(ロサンゼルス在住)は、生まれてすぐにベケットくんの筋肉がふにゃふにゃしていることに気付いた。2歳6カ月時点で40~50語あった語彙は失われ、現在はごくわずかな言葉しか話せず、そのほとんどが片言だ。
病気の子を持つ親なら誰もが、わが子の病気が何なのか知りたい。エリックとトリシアも例外ではない。ベケットくんは遺伝性疾患だと考えた医師は、答えを得るためにDNAを調べた。遺伝子検査で診断できることはよくあり、それで患者を治療に導けるケースがある(「勝つのは誰か?適確医療イノベーション」参照)。病気が何なのかを知るため、エドワーズ一家は長い診断の旅に出た。精度が向上し続けるたくさんの検査の最後にたどり着いたのがベケットくんの全ゲノム解析だ。ゲノム解析のコストは下がり続けており、患者はより包括的な検査を受けられるようになっている。
ベケットくんの担当医はまず、標準的な遺伝子検査を受けるように勧めた。遺伝疾患の「プラダー・ウィリー症候群」(ベケットくんの症状のいくつかと一致する希少疾患)を調べる検査を受けたが、結果は全て陰性だった。
一部の疾患の可能性が除外された後、一家は次の段階である「全エクソーム解析」でベケットくんを調べることにした。全エクソーム解析とは、人間の全ての既知の遺伝子を解析することだ。「エクソーム(exome)」の「ex」は「expressed(遺伝子発現)」のことで、タンパク質の合成に関わるDNAを指す。エクソームはヒトゲノムの60億のDNA文字のうち、たった1.5%分に過ぎないが、疾患を発生させる可能性はエクソームの突然変異である可能性が最も高い。ベイラー医科大学(ヒューストン)で遺伝子カウンセラーを務めるジル・モクリー助教授は、エクソームは遺伝子分野の「低い位置の果実(簡単に解決できる問題)」だという。
エドワーズ一家は3人とも全エクソーム解析を受けた。健康な両親の検査で発見された異常なDNAの突然変異は、ベケットくんの疾患の原因から除外できる。エクソーム解析は2010年に初めて専門クリニックに導入され、約25 …