ブロックチェーンは世界の貧困層を金融システムに取り込む仕掛け
ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団は、分散型元帳テクノロジーにより、銀行口座のない20億人を金融システムに組み込もうとしている。 by Elizabeth Woyke2017.04.20
世界には銀行口座がなく、現金で取引せざるを得ないため、財産を管理しにくく、安全上の問題を抱える20億もの人がいる。電子通貨ビットコインの基礎テクノロジーであるブロックチェーンは、こうした人々に金融サービスを提供できるだろうか。ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団はそうできると考え、貧困層を表の経済に加えるため、デジタル記録管理システム「ブロックチェーン」(本質的に安全で信頼性がある)を修正している。
この構想は、ゲイツ財団による貧困層向け金融サービスプロジェクトの一環だ。特にゲイツ財団のレベルワン・プロジェクトでは、誰でも(1日数ドルで生活している人でさえ)利用可能なデジタル決済システム構築基盤を、政府や中央銀行に提供している。
ゲイツ財団のシステムは、シンプルな2G携帯電話や無線ネットワーク等のデジタル・テクノロジーで金融サービスの処理費用を削減することで、どの国にもある既存の金融インフラに新しいデジタル決済プラットフォームを接続する。システムを稼働させ実行すれば、電話でテキストメッセージを送信するのと同じ方法で、お金を送受信できる(“Why Bitcoin Could Be Much More Than a Currency”参照)。
レベルワンのコスタ・ペリック・プロジェクト・リーダーは、ブロックチェーン・テクノロジーは、チームが考える貧困層向けデジタル決済プラットフォームのいくつかの条件を満たしている、と考えている。18日にMIT Technology ReviewとMITメディアラボが共催した「ブロックチェーンのビジネス」カンファレンスで、ペリック・プロジェクト・リーダーは条件として、複数のサービス事業者が参入できること、第三者のアプリケーションが使えること、受入国の通貨が混乱していないこと、適切な政府規制があること(数百万人相手に送金するサービスを提供する能力、詐欺と安全性に関する包括的な保護、低いサービス料金)をあげた。
ブロックチェーンはシステム要件の一部を満たすが、ブロックチェーンは即時性の高い取引処理は困難であり、数多くの人が使えるサービスにもできない、とペリック・プロジェクト・リーダーは考えている。また、ほとんどのブロックチェーン型ネットワークは世界規模で展開されており、中央政府や中央銀行は、簡単に規制できないことも懸念事項だ。
こうした課題は重要だ。ゲイツ財団はシステムの開発を促進したいだけであり、運営も管理もしない。「政府や銀行が承認するには、マネーロンダリングやテロ資金の送金に使われないように監視することで、電子通貨のプラットフォームを規制できなければいけません」とペリック・プロジェクト・リーダーはいう。「しかも新しいサービス事業者のほとんどは銀行ではなく、詐欺の対処に慣れていないでしょう」
ペリック・プロジェクト・リーダーは、ブロックチェーンの修正版がレベルワン・プロジェクトの要件を満たすかもしれないと考えている。ペリック・プロジェクト・リーダーのチームは、アフリカや南アジアの企業と協力し、どのブロックチェーン派生テクノロジーが最適か見極めようとしている。導入の可否を決める基準を作りたいのではなく、レベルワン型システムでうまくいく参照テクノロジーの基準を見つけたいのだ。
レベルワンが推奨するシステムは、ケニアの「エムペサ」やバングラデシュの「ビーカシュ」など、新興市場にすでにあるモバイル・マネー・プラットフォームより包括的で有用なものになるだろう。エムペサはケニア市場で非常に人気があり、銀行口座を持たない多くの人を表の経済に結びつけているが、ユーザーによる他のエムペサ・ユーザーへの送金は制限されている。
一方でペリック・プロジェクト・リーダーの望みは、レベルワン・プロジェクトで多国間の通貨システムや、迅速かつ安価で使いやすい送金システムを生み出すことだ。「多くのアフリカ諸国がレベルワン・プロジェクトの原則に準拠すれば、デジタル金融サービスシステムを簡単に相互接続できます。アフリカ全体が相互運用可能な巨大決済プラットフォームになることを願っています」
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クレジット | Photograph by Justin Saglio |
- エリザベス ウォイキ [Elizabeth Woyke]米国版 ビジネス担当編集者
- ナネット・バーンズと一緒にMIT Technology Reviewのビジネスレポートの管理、執筆、編集をしています。ビジネス分野ではさまざまな動きがありますが、特に関心があるのは無線通信とIoT、革新的なスタートアップとそのマネタイズ戦略、製造業の将来です。 アジア版タイム誌からキャリアを重ねて、ビジネスウィーク誌とフォーブス誌にも在籍していました。最近では、共著でオライリーメディアから日雇い労働市場に関するeブックを出したり、単著でも『スマートフォン産業の解剖』を2014年に執筆しました。