KADOKAWA Technology Review
×
人工衛星の低コスト化で「ケスラーシンドローム」が現実化
Satellite Swarms Could Eat Themselves

人工衛星の低コスト化で「ケスラーシンドローム」が現実化

古い衛星を大気圏に突入させて燃やさないまま、人工衛星を打ち上げ続けれれば、衛星同士が衝突する危険性が高まる。衛星同士が次々に衝突すれば衛星軌道がゴミだらけになる「ケスラーシンドローム」が現実化しかねない。 by Jamie Condliffe2017.04.20

宇宙に打ち上げられた人工衛星が粉々になって落下するとき、落下軌道にある衛星を巻き添えにする可能性がある。

衛星の本体価格と打ち上げコストの低下により、地球の観測/監視やデータ通信用途の人工衛星は、今後さらに多く打ち上げられるだろう。しかし、人工衛星の数が増えれば、スペース・デブリ(宇宙のごみ)問題が今よりはるかに悪化する可能性を心配する科学者がいる。

地球の軌道を回って活動する人工衛星は、2016年末に1459基になると予測されていた。しかし、各企業は小型衛星を多く打ち上げ続けており、人工衛星の数が急増するのは間違いなさそうだ。たとえは、今年になって、宇宙から地球の写真を撮るため、プラネット・ラボは自前の小型衛星を88基打ち上げた

広大な衛星軌道に88基程度なら大したことはなさそうだ。実際、プラネット・ラボが打ち上げた人工衛星はどれも小型で、 大きさはリュックサックくらい、重さは約4kgに過ぎない。だが、もっと壮大な計画を立てている企業もある。スペースXの計画では人工衛星4425基を打ち上げ、地球全体にインターネット接続を提供しようとしている。サムスンもやはりインターネット接続網を拡大するために、4600基を打ち上げる計画がある。ボーイングも同じことを考えており、自前で3000基の大編隊を運用する計画だ。

この調子でいけば、宇宙に人工衛星の大群が出現しそうな勢いなので、サザンプトン大学(英国)のヒュー・ルイス上級講師は心配で夜も眠れない。ルイス上級講師が懸念するのは、軌道を回る人工衛星の数が増えると、衝突の危険性も高まるからだ。現行のルールでは、耐用年数が切れた人工衛星は25年以内に軌道から離脱させ、大気圏で燃やすことになっているが、これでは問題がかえって複雑になり、制御不能になる恐れがある。

いてもたってもいられないルイス上級講師は、軌道を回る人工衛星の数が1000基に増えたら、今後200年間でどんな事態が発生するかシミュレーションしてみた。現行の人工衛星廃棄ガイドラインのままでいくと、人工衛星同士が衝突する可能性が50%増加すると見込まれている(今週開催の欧州宇宙機関の会議で、ルイス上級講師はスーパー・コンピューターで計算した結果を報告する予定)。BBCの取材に応じたルイス講師は、問題の根源を以下のように説明した。

「シミュレーション結果によると、衛星の位置を廃棄軌道に移した場合、下を回っている人工衛星のそばを通ることになります。低い高度を廃棄衛星が通り過ぎるのに25年かかるとすれば、その低い高度を回っている人工衛星と衝突する可能性が十分あります。ただし25年を5年に短縮すれば、衝突が起きる危険性が大幅に低くなります」

50%の確率上昇は、全体から見ると大した割合ではなさそうだ。だがニュー・サイエンティスト誌の記事にあるとおり、人工衛星同士が衝突する可能性が高まると、長らく懸念されてきた「ケスラー・シンドローム」が現実になりかねない。ケスラー・シンドロームとは、人工衛星同士が次々と衝突し、最終的にはスペース・デブリが地球をベルト状に覆ってしまう状態だ。そうなれば、現在稼働中の人工衛星が数多く破壊されてしまう。新しい人工衛星の打ち上げや新たな宇宙開発は、現在よりもずっと困難になるのは言うまでもない。

スペース・デブリの除去にあたっては、たとえば、ロケット・エンジンでガラクタを燃やし尽くすなど、もっと過激なアイデアが以前からある。しかしルイス上級講師の提案はもっとシンプルだ。単純に引退した人工衛星の大気圏再突入期限を、現行の25年以内から5年に短縮すればいい。人工衛星にも、インターネット接続に依存する人類にとっても、よい案ではないだろうか。

(関連記事: BBC, New Scientist, “800機の人工衛星で全米にインターネットアクセス,” “人工衛星149基を運用 プラネット・ラボの全地球画像ビジネス,” “Junk-Eating Rocket Engine Could Clear Space Debris”)

人気の記事ランキング
  1. What’s on the table at this year’s UN climate conference トランプ再選ショック、開幕したCOP29の議論の行方は?
  2. This AI-generated Minecraft may represent the future of real-time video generation AIがリアルタイムで作り出す、驚きのマイクラ風生成動画
タグ
クレジット Image by NASA
ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る