EVE Onlineのプレイヤー、太陽系外惑星の発見に協力
オンライン・ゲームEVE Onlineのプレイヤーが、太陽系外惑星を探す巨大市民科学プロジェクトに参加し、衛星画像を精査することになった。アルゴリズムはまだヒトの視覚に敵わないことの証だ。 by Simon Parkin2017.04.19
今年6月、ジュネーブ大学は、これまで考えられていなかった大規模な市民科学プロジェクトに着手し、何十万人ものビデオゲーム・プレイヤーに、未知の太陽系外惑星の調査に協力してもらう予定だ。プロジェクトはビデオゲーム「イブ・オンライン (EVE Online)」内で実施される。EVE Onlineは架空の銀河が舞台のビデオゲームで、プレイヤーは宇宙船に乗って旅をし、バーチャル領土の資源と支配をめぐって競い合う。
ジェネーブ大学の研究は、クラウド・ソーシングを上手に利用することで、アルゴリズムによる自動化の限界を克服する方法を示している。また、ビデオゲーム分野の各地に構築されたコミュニティの能力を、どうすれば有益な課題に生かせるのかも示している。
イブのプレイヤー、ゲームメーカーと科学者の仲介役企業「大規模多人数型オンライン科学 (MMOS)」の協力により、欧州宇宙機関が2006年12月に打ち上げた人工衛星「CoRoT」が収集した16万7000枚の光度曲線画像のアクセス権を得る。2017年にウルフ賞物理学部門を受賞し、太陽系外惑星の最初の発見者でもあるジュネーブ大学のミシェル・マイヨール教授(天文学)は「科学者はこれまで、CoRoTが収集したデータセットから約30個の惑星を発見しました。私たちは画像内にはまだ、おそらく12個の未知の惑星が隠れていると予測しています」という。
天文学者は数世紀もの間、私たちの太陽系で発見された惑星の他にも、外部に他の惑星があるのではないかと疑っていた。しかし、いわゆる太陽系外惑星の発見や検証手段として、人間が高倍率望遠鏡や分光計のテクノロジーを利用し始めたのは1992年からだ。それ以降、3600個以上の太陽系外惑星が発見されている。そのほとんどは、恒星を周回する惑星がその恒星の前を横切った際に起きる、光のわずかな変化を検出する「トランジット法」によって発見された。光を弱める効果の、持続時間と規則性を測定することで、惑星の半径や質量、密度など、惑星に関する多くの情報を推定できるのだ。
近年、コンピューター・アルゴリズムを使うことで、太陽系外惑星を探索する多様な人工衛星や望遠鏡によって収集された大量のデータの大部分を調査できるようになった。その結果、つい最近TRAPPIST-1星系の比較的近くに、生命が生息できる可能性のある3つの惑星を米国航空宇宙局(NASA)が発見した。しかし、アルゴリズムが解析可能なのは、もっとも単純な光のデータだけだ。光度曲線に多くのノイズや不規則なスパイクを含んだ、より複雑な画像を読み取れるのは人間だけだ。太陽系外惑星を探索している科学者にとっての課題は、情報を精査するには多くの人手が必要なことだ。
この太陽系外惑星プロジェクトはイブ・オンラインの既存の物語の中に組み込まれる予定だ (マイヨールのバーチャル版の分身が、ゲーム内で太陽系外惑星プロジェクトを「運営」する)。EVE Onlineには最盛期50万人以上のプレイヤーがいた。EVE Onlineの運営企業C.C.P(本社アイスランド)は現在EVE Onlineのプレイヤー数を公表していない。
プレイヤーが興味深いものを偶然発見すると、ゲームの開発者に通知される。続いて、その物体は既知の惑星リストと照らし合わされる。5人の異なるプレイヤーが同じ画像に対して通知を送ると、その画像がジェネーブ大学に送信され、さらに調査される。
EVE Onlineのプレイヤーが科学研究に貢献するのは、今回が初めてではない。昨年、プレイヤーはヒトタンパク質アトラスのマッピングに協力した。正常組織と悪性腫瘍に発現するタンパク質と、タンパク質をコードする遺伝子のカタログを作成する、スウェーデンの研究チームによるプロジェクトだった。このときプレイヤーは、自身の戦い、採掘、取引をいつでも中断して、EVE Online内に用意されたシンプルなゲームをプレイできた。数十万枚の顕微鏡画像の間の違いを見つけて、印をつけるのだ。プレイヤーは、仕事に自ら参加し、没頭した(用意されたデータセットは、わずか3週間ですべて印がつけられた)。
太陽系外惑星の探索は、そこまで早くには終わらないだろう。CoRoTからのデータセットの確認完了後にも、NASAの宇宙望遠鏡ケプラーから新たなデータセットが読み込まれることになっている。ケプラーは、生命を維持できる可能性のある惑星をTRAPPIS-1星系に発見した際の立役者だ。EVE Onlineのゲーム設計者のひとりベルグル・フィンボガーソンは「(ケプラーのデータセットには)計り知れない可能性があります」という。
さらに大きな目で見ると、こうした実験の背後には、宇宙での生命の存在を発見する夢があるのだ、とマイヨール教授はいう。「私たちには、すでに、塩素など、植物の繁殖を促進する分子を検知するテクノロジーがあります。(生命の探索は)簡単ではないでしょうが、可能なのです」
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クレジット | Image courtesy of Getty Images |
- サイモン パーキン [Simon Parkin]米国版 ゲスト寄稿者
- サイモン パーキンは英国出身の作家でジャーナリスト、番組司会者。ニューヨーカー誌、ガーディアン紙、デイリーテレグラフ紙、エッジ誌等多数のメディアで10年以上にわたって、ビデオゲーム文化の最新動向の批評や取材記事を執筆してきました。