アマゾンのチャットボット「アレクサ」はウーバーで自動車を呼び、4歳児におならの音をせがまれればプーッと音を出す。アップルの「Siri」はネット接続のサーモスタットも制御できる。
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どちらも1日数百万のユーザーが利用するサービスだが、幸運にもフェイスブックのアシスタント(名前は「M」)を試用中の約1万人のユーザー(多くはカリフォルニア州在住)は、Mが一番賢いことを知っている。
小さな子ども連れにおすすめのモロッコのロマンチックなホテル? 問題なし。地元の業者から庭の外構工事の見積もりを取りたい? すぐに完了。実験段階のフェイスブックのアシスタントは、Facebookのメッセンジャー・アプリ内にいる、本当にポケットの中にいるデジタル執事だ。アレクサやSiriのようにデータベースから簡単な情報を検索するのではなく、Mは人間の複雑な指示を理解し、劇場のチケット予約や企業への問い合わせなど、実際の仕事までやってくれる。
Mが非常に賢いのは、ズルをしているからだ。ユーザーがメッセージをMに送ると、Siriと同じようにMのアルゴリズムはユーザーの要望を理解しようとする。だが、アルゴリズムが要望を理解できない場合、Mの最後のよりどころはWebで検索する選択肢を示したり「すみません。質問の意味がわかりません」と設定済みの台詞を話したりすることではない。あたかもアルゴリズムがずっと対応しているかのように、ユーザーには気づかないところで人間が任務を引き継ぎ、要望に応えているのだ(フェイスブックは、人間のオペレーターの現在の人数、Mの検証用に何人必要なのか、回答しなかった)。
フェイスブック・メッセンジャーには12億のユーザーがおり、最終的に人間が回答する仕組みでは実用化段階で費用がかかりすぎる。そこでフェイスブックは2015年、研究開発中のサービスとして、数千人に限ってMを提供したのだ。人間のオペレーターとアルゴリズムが連携することで実現した博識のバーチャル・アシスタントにユーザーがどう反応するか検証し、アルゴリズムが「トレーナー」役の人間からデータを入手し、学習によって仕事を引き継げるようにするのが狙いだ。
プロジェクトを立ち上げたアレックス・ルブランは「この分野の誰もが最終的には非常にスマートなアシスタントを作りたがっています」と言う。Mは本当の意味で、非常にスマートなアシスタントを実現する道筋をつけるのではないかと期待されている。
サービス開始から2年後のいま、フェイスブックの研究プロジェクトは成功といっていいだろう。ユーザーはMを気に入っている。ソフトウェアが人間のトレーナーの仕事の一部を引き継ぐように学習できるという仮説も裏付けられた。だが、Mが他の99.9%のメッセンジャーのユーザーに同じサービスを提供するにはほど遠い。予想以上にAIの発展が遅いのだ。
ルブランは「非常に大きな課題だとわかってはいましたが、実際、思っていたよりずっと難しいです。学習係数、つまり自動化率の伸びが、私たちの予想よりずっと遅いのです」という。この話は人工知能のこれまでの進歩の程度と、今後の道のりがどれだけ長いのか思い知らされる。
MはMoonshot(月探査ロケット打ち上げ)のM
人は驚くほど頭の悪い機械と話すことが好きだ。マサチューセッツ工科大学(MIT)のジョセフ・ワイゼンバウム教授が最初のチャットボットを作ったのは1964年のことだ。特定のキーワードに反応して録音された台詞を再生するチャットボットだ。特にセラピストが一番のはまり役だった。教授自身の秘書など、最初のボット「イライザ」を試した多くの人が、イライザが何も知らないとわかっているのに、すっかり夢中になってしまったことにワイゼンバウム教授は困惑した。後年、ワイゼンバウム教授は「比較的単純なコン …