エリック・マンサーが、網膜色素変性症で運転をやめざるを得なくなってから15年過ぎた。現在マンサーはアクセシビリティ・コンサルタントとして、職場まで電車とバスで通勤している。だが、マンサーは空席を探すのに苦労することがあるほど視力が衰えており、見知らぬ人に案内を頼むこともある。
マンサーの抱える困難の解決に向けた一歩が、来年には登場するかもしれない。マンサーの雇用主であるIBMと独立系自動車メーカーのローカル・モーターズは、視覚・聴覚・身体・認知障害者用に、人工知能、拡張現実、スマホアプリを組み合わせた自律運転の電気シャトルバスを開発中なのだ。バス(ニックネームは「オリ(Olli)」)は、住宅地と都市部を時速56km未満で運行するように設計され、市や郡、空港、企業、大学に販売される予定だ。もし、計画通り2018年夏に生産が始まれば、「オリ」バスは米国の路上を走る自律運転自動車の先駆けになるかもしれない。
オリは完全自律型で、人間のドライバーはいない。そのため、IBMの人工知能(AI)テクノロジー「ワトソン」により、音声とiPad上に表示されるテキストを通じて乗客と会話をする。オリは、メリディアン・オートノマス製のレーダーやライダー(LIDER:レーザーによる測距装置)、光学カメラを使って運行する。ある地域でオリ・バスを運行する前に、メリディアン・オートノマスは運行地域の3D地図(ローカル・モーターズによれば、精度は1cm)を作る。続いて、人間の車両管理者がバスの経路を決定する。さまざまなセンサーで緊急事態を検知すると、オリは停車し、人間の遠隔監視員に通知し、バス自身でも可能性のある問題のチェックリストを調べる。プロジェクトを率いるローカル・モーターズのジーナ・オコネル社長は「乗客に健康上の問題が起きたり、安全性の問題が起きたりしたら、オリは関係機関に連絡するか、自分で病院や警察署に向かいます」という。
ローカル・モーターズとIBMは、2016年上期からオリの共同開発を始め、2016年6月に1台目のバスを製造した。この車両は現在、ドイツとスイスで試験走行中だ。ただし、支援機能を追加する(両社が「アクセシブル・オリ」と呼ぶ)第2世代のオリは、2018年に製造開始予定で、乗客とのコミュニケーション・ツールとして、ワトソ …