マサチューセッツ工科大学(MIT)とカリフォルニア大学バークレー校の研究グループは、太陽光だけで稼働する、砂漠の空から水を取り出す装置を開発した。研究グループは将来的に、テクノロジーを改良し、地上でもっとも干ばつと貧困が深刻な地域で、清潔な飲用水を提供したいと考えている。
装置は、たくさんの小孔の中に大量の水を集められる新素材でできている。4月13日にサイエンス誌に発表された論文によれば、湿度わずか20%(乾燥地域の典型的な環境)でも、新素材1kgあたり毎日数リットルもの水を集められるという。
このテクノロジーは、拡大中の深刻な問題に対処するのに使える可能性がある。昨年、サイエンス・. アドバンシズ誌に掲載された論文によれば、現在、地球全体では40億人、インドと中国の人口の約半分は「1年のうち1カ月以上、深刻な水不足」に直面しているという。つまり、世界人口の3分の2で水が不足しているのだ。水不足(その結果生じる衝突)は、気候変動が加速するほど、世界の大部分の地域でさらに頻発する可能性がある。
テクノロジーを開発したカリフォルニア大学バークレー校のオマール・ヤギ教授は、実現のカギは前途有望な合成多孔質素材「金属有機構造体(MOF)」だという。金属有機構造体は、金属原子で縫合された有機分子でできており、ヤギ教授が先駆者として開発した素材だ(“A Better Way to Capture Carbon”参照)。新素材の小孔の大きさと化学的特性は、特定の種類の分子を捉えたり、あるいは通過させたりするためにカスタマイズできる。また、新素材は非常に表面積が大きいため(1gあたり、アメフトのグラウンド並みの表面積がある)、表面に大量の粒子をくっつけられる。
今回の事例で研究グループは、水分子を効率的に捉えるように最適化された材料(以前にヤギ教授が開発した)を使った。試作された装置は、夜や日陰で水を集め、日中、素材に日光が当たると、液体の水分子が水蒸気に変わるための十分なエネルギーを得て、水分子が水蒸気になって素材の小孔から抜け出し、機器に取り付けられたアクリル製の囲い(水路)に入っていく。水路の最下部に取り付けられた集水器で水滴を集め、下にある箱に流し込むことで、清潔な水を取水できる。
この工程は完全に受動的で、太陽光パネルも、電池も、追加のエネルギーもいらない。大気から水を得る従来のテクノロジーは、霧が出るなど、湿度が高い気候条件の地域でしか使えなかった。
研究チームはこのテクノロジーを今後も高度化し、改良を加えていく計画だ。MITの装置調査研究所(DRL)を率いるエブリン・ワン准教授によれば、製品としての実用化は「さほど遠くない」という。ワン准教授は、この主の材料は、ドイツの大手化学メーカーBASFが既に大量生産しており、価格もどんどん手頃になっているという。
ヤギ教授は、このテクノロジーを太陽光パネルや他の装置と組み合わせて、工業・農業用水をさらに生産できると考えている。だが、ヤギ教授のより大きな希望は、この種の装置が、世界の貧困地域の各世帯で、据え付けの設備になることだ。そうなれば、各家庭が配給を受けたり、自分たちで運べる間に合わせの道具で、地域の井戸から水をくんだりせず、自分たちの飲み水を確実に生産できるようになる。