プーチンが仕掛ける第四次世界大戦とテック型調査報道
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Russian Disinformation Technology プーチンが仕掛ける
第四次世界大戦と
テック型調査報道

ウクライナで撃墜されたマレーシア航空17便は、クレムリンが仕掛ける「第四次世界大戦」の一部だった。ばく大な戦争費用を避け、敵を諦めさせる意思に対抗するのは、テクノロジーを味方に付けた市民ジャーナリズムかもしれない。 by John Pollock2017.04.18

2014年7月17日、アムステルダムのスキポール空港でマレーシア航空17便(MH17)の乗客が搭乗手続きをしていた時、「ネクロマンサー」(@666_mancer)は約2414km東のウクライナに展開する見慣れない部隊についてツイートした。ネクロマンサーの市民諜報ネットワークが、覆いのかけられた対空ミサイル・システムが低荷台トラックに載せられ、ドネツク(ウクライナ東部の工業都市)を通り抜けることに気付いたのだ。

数分後、ウラジーミル・ プーチン大統領は地球の裏側にあるブラジルの首都ブラジリアで、早朝の記者会見を終えたところだった。最後の質問は、2日前に発生したモスクワ地下鉄で24名が死亡した最悪の事故に関してだったが、それに対するプーチンの答えは、15カ月後にロシアの陰謀論者が取り上げるまで忘れ去られていた。史上最悪の撃墜事件の後で見れば、プーチンの言葉には恐ろしい含意があったのだ。

「責任とはつねに個人的であるべきだ。古典的な刑法上の事例に『誤射の悲劇』がある。ふたりの猟師がやぶの中に獲物がいると思って銃を撃ち、誤って人を殺してしまった。誰が撃ったかを捜査官が特定できなければ、ふたりとも釈放される(略)捜査官は犯人を見つけるべきだし(略)犯人は責任を取らなければならないが、責任を取るのはまさに過ちを犯した特定の個人に限られる」とプーチンは答えた。その日の終わりまでに、MH17便撃墜の罪と責任の所在が国際的な関心事になった。世界各地の捜査官には、豊富な情報を持ち専門的な訓練を受けた公的機関の職員から、個人的に組織された「ベリングキャット(Bellingcat)」まで、さまざまなグループがいた。ノートPC、公開の情報源からの資料、そして執念深さだけで「市民捜査ジャーナリスト」はミサイルの発射台を見つけ出し、何十人もの兵士を特定し、ミサイル発射と重大な関わりのあるロシア軍将校を特定した。

MH17便の惨劇は、奇妙なほどに我がことに思える。一面に散らばった瓦礫の中に、子どものスーツケースから飛び出したぬいぐるみが落ちている。事件は束の間のあいだウクライナ戦争への注目を高めた。クリミア併合に際するロシアの誤った方針や、ヨーロッパの東端で起こった実態のはっきりしない戦闘がMH17便を巻き添えにしたと考えられたのだ。しかし、その裏にはより深くて広い戦争が潜んでいた。

アンドレイ・イラリオノフはプーチン政権の上級経済顧問であり、5年間にわたってG8の大統領代表だったが、増え続ける汚職に抗議して辞職した。MH17便撃墜の2カ月前、イラリオノフはウクライナ侵攻を「第4次世界大戦」の「序章」だと述べた(スターリンの陰鬱な用語では冷戦を「第三次世界大戦」と呼ぶ)。イラリオノフはこのフレーズを嫌っていたが、「クレムリンのプロパガンダ・マシンは、今ロシアが全世界に対して起こそうとする」戦争を指してそう呼んでいるという。

この「戦争」では情報が武器として使われ、2016年の米国大統領選挙をきっかけにその実態は西側世界でも周知されている。今ではロシアのハッカーに盗まれた民主党全国委員会のメール、高度なボットネット、ヨーロッパ全体で発生する同種の攻撃はよく知られている。だが、ロシアの活動の全体像はまだわからない。私たちが戦争のただ中にあるのだと認識すること、そしてどのように反撃するかを考えることが現在の喫緊の課題だ。MH17便の物語、そしてロシアの曝露が、憂鬱ながら有用な事例研究を提供してくれるだろう。

偽情報の仕掛け

1983年に旧ソ連が大韓航空007号を撃ち落とし、269人が亡くなった時と同様、MH17号に関する世界中からの憤慨に対するロシアの反応は「どうにか工夫し、反論をひねり出す」だった。ウクライナの戦闘機やウクライナの地上軍、もしくは米国中央情報局(CIA)に非難の矛先を向けたり、はたまたプーチンの自家用飛行機が本当のターゲットだったと主張したりと、ころころと変わる主張が繰り広げられた。米国の対中政策に影響力がある有力シンクタンク、大西洋評議会デジタル科学捜査研究所のベン・ニモ上級フェロー(情報防衛担当)によると、ロシアの戦略はニモ上級フェローがいう「4Dアプローチ」に基づいている。4Dは「否認(dismiss)、歪曲(distort)、錯乱(distract)、諦め(dismay)のことで、決して本当のことは言わず、決して認めず、ひたすら攻撃し続ける」のだ。

「ロシアの最も一般的な反応は、批評家の攻撃です。ロシアの手法は『中傷と誇大』です」とニモ上級フェローはいう。批評家は公式声明や代理人を通して、あるいは国営メディアに匿名の情報源からの引用の形で泥を塗られる。さらに報酬を受け取っている雇われの「荒らし」や、高度に自動化されたボット・ネットワークが批評家への攻撃に拍車をかけるのだ。この動きに対抗して、特別の目的を持つ市民、個人所有の企業、非政府組織が協力し、MH17便と、ロシアによるウクライナ、シリア、欧州・大西洋パートナーシップへの侵略問題に日の光を当てるまでに成長した。イタリアの作家イタロ・カルビーノが『新たな千年紀のための6つのメモ(Six Memos for the Next Millennium)』で概説している軽量性、敏捷性、正確性、明瞭性、多様性、一貫性の価値観で例証すると、新たな市民ジャーナリズムは、ロシアの報復主義的な戦略に対する、西洋の概して硬化性な反応とはまったく対照的だ。

ロシアの欠点は、「マスキロフカ」と称される国政を操る優れた手法を強化するのに使われるデジタル・テクノロジーの使用方法に露骨に現れる。マスキロフカの直訳は「小さな仮面舞踏会」で、このつかみどころのない概念の多義性と重要性をうまく隠している。マスキロフカを「軍事的欺騙」と理解すれば、その深く文化的に根差した性質を見逃してしまう。マスキロフカは偽装と否定、深い策略を伴うのだ。米国中央情報局(CIA)の敵対情報活動の創立責任者であるジェームズ・ジーザス・アングルトンは「無数の軍略、虚偽、術策、そしてその他あらゆる偽情報の仕掛け…事実と虚構が入り乱れ、鏡の荒野のような常に揺れ動く風景により、西側を混乱させ、分断に追い込むのです」と表現した。

マスキロフカの武器庫にある最強兵器は偽情報(disinformation)だ。そもそもこの言葉は1950年代にロシア語の「dezinformatsiya」から英語になった。冷戦の一世代後、折り紙付きの「デザ(偽情報の仕込み屋)」の達人は、自由民主主義に感染しやすい免疫系に対抗し、偽情報テクノロジーを配置したのだ。ロシア出身で、カルガリー大学軍事・戦略研究所のアンドリュー・アンダーセン安全保障アナリストは「現時点で、西側は負けています」という。

「最初に理解しなければならないのは、これは戦争だということです。冗談でもなければ、何かのゲームでもありません。『ソーシャル・ネットワークで友だち付き合いをする』のとは違います。本当の戦争なんです。参加したくなくても、戦争の掟に従って行動しなければなりません」とアンダーセン安全保障アナリストはいう。アンダーセン安全保障アナリストや本記事のためのインタビューした複数の人物は、現在の事態を指して、ロシアの革命家トロツキーの悪名高い警句に言及した。「君は戦争に興味が無いかもしれないが、戦争は君に興味がある」

この新しい形態の戦争は、名前すらはっきり定まっていない。「非定形」「ハイブリッド」「不規則」「非線形」交戦状態といった呼び名が提案されてきた。国際関係研究所(プラハ)のマーク・ガレオティ上級研究フェローは新著『ハイブリッド戦争かギブリディヤナ・フォイナか?――ロシアの非線形軍事的挑戦の理解』(「ギブリディヤナ・フォイナ」はロシア語で「ハイブリッド戦争」の意味)で、この問題を解説している。ガレオティ上級研究フェローは、本を書き終えた今でも、この問題を解き明かそうと苦労しているという。「私たちが『ハイブリッド戦争』と呼ぶべき実態について考えれば考えるほど、答えは単に『戦争』だと思うのです」

「ロシア人は、国際的係争の性質がどう変化し、21世紀流のやり方ではどう終結させるのかにつまずいたのです。直接的軍事行動(『ドカンとやること』の軍事専門用語)は政治的にも経済的にも、ばかばかしいほどお金がかかる時代です。それで、戦争は別のさまざまな方法で実行されるのです。その多くは秘密裏に実行され、曖昧です。ロシア人は幸運にも、今世紀の真実にばったり行き当たったに過ぎないのです」(ガレオティ上級研究フェロー)

不正規軍の仕業

MH17便が離陸するちょうど1時間前、ネクロマンサーは「外見はBUK(ブーク)にとてもよく似ている」とツイートしている(BUKはロシア製中距離地対空移動ミサイル・システムの一種)。ドネツク在住のある50歳前後の男性は、フコンタクチェ(ロシア語で「交 …

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