KADOKAWA Technology Review
×
コメント機能再考
ジェイソンポンティン編集長
荒らしと戦う
Tomi Um
カバーストーリー Insider Online限定
Me and My Troll

コメント機能再考
ジェイソンポンティン編集長
荒らしと戦う

MIT Technology Reviewのジェイソン・ポンティン編集長が、荒らしとの長年の戦いとコメント機能運用ルールの改定について説明している。日本版はまだユーザー数が少なく、日本の文化もあってコメントはあまりつかないが、米国版同様に運用する。 by Jason Pontin2017.04.13

私(=MIT Technology Reviewのジェイソン・ポンティン編集長)には荒らしが付いている。@zdzisiekmや、「Gus」等の名前で、MIT Technology Reviewの記事に2017年4月現在、6386件のコメントを書いた。普通の荒らしに比べるとGusはいつでも礼儀正しく、MIT Technology Reviewの利用規約に違反することない。その代わり、ひとつの話題に繰り返し、偏った意見を述べる。GusはMIT Technology Reviewの地球温暖化と再生可能エネルギー・テクノロジーの記事に怒りをあらわにする。Gusの反論は概念としては科学的だが、イデオロギー臭を強く漂わせている。

4年前の記事「Climate Change: The Moral Choices」に対するコメントは@zdzisiekmの特徴をよく示している。「私はこの問題について数百の論文を読み、関連する科学文献を幅広くそして深く検証したが『気候変動の脅威』は事実としては存在しない。全てがでっち上げだ。本当に査読を受けて発表された科学論文でこの点が明確にされている(略)いくつかの国では(エコノミストが)経済を化石燃料から切り離したいと強く望んでいることが原因で、エコノミストはどんな嘘をついてでも(略)」

MIT Technology Reviewとは長い付き合いになるが、Gusは相変わらずだ。この1月「トランプ政権がエネルギー研究を縮小すれば多くの雇用が奪われる」の記事に、Gusはこう指摘した。「民主党というアメリカの左翼が支持してきた解決策はどれも不可能で、安全でもなくまた(略)信頼できない。送電網に不安定なエネルギー源を付け加えることにはひとつの働きしかない。エネルギーコストの増大だ(略)安全性については、無数のコウモリや鳥が、飛行中に風車や太陽光施設によって殺され、視力を失い、焼かれてしまった。人々は絶え間なく不愉快な風車の騒音に迷惑している。しかも、これらのテクノロジーが(略)中国以外で雇用を生み出すこともない」

@zdzisiekmも個人的だ。MIT Technology Reviewとのやり取りは親密で過激なのだ。@zdzisiekmは私の判断を汚したり、適性をけなすことがよくある。「本来あなたの専門ではない」と@zdzisiekmは最近私宛てにメールを送ってきた。

私はGusが誰か知っている。Gusを追跡調査したのだ。読者にコメントで書くのではなく個人的な情報提供を依頼したところ、Gusの特定は難しくなかった。私の記事の荒らしは60代の人物で、中西部の大きな公立大学のIT部門のテクニカル・アドバイザーだ。Gusはふたつも博士号(電子工学と物理学)を持つ人物で、コンピューター・アーキテクチャーに関して優れた論文を書いており、猫についてはパッとしない詩を書いている。(ここでは@zdzisiekmの本名を明かさないことで彼と同意している。「私が誰かわかっているだろう」と@zdzisiekmはいった。「しかし、名乗らないでおきたい。窓にレンガを投げられたり、車を傷つけられるのはかなわない」)

なぜMIT Technology Reviewへのコメントにそれほど時間と精神力を無駄に使うのかを尋ねると、Gusはこう答えた。「それほど時間はかからない。私が持っている中からさまざまなテーマについて特定の記事を素早く検索できるパーソナル・データベースを手に入れたのだ。現時点で記事は数万になる」。これは本当の話だ。多くの荒らしのように、@zdzisiekmは多くのコメントに同じ記述をコピペしている。@zdzisiekmは特に「1880年から見られる地球温暖化現象はすべて自然の100年周期の世界的な温度変化より少ない」などといった書き出しの記事がお好みだ。根拠不明の出版物から、ほとんど査読されていない、気候変動の原因について科学的な議論がなされているかのような印象を与えることを意図した記事のことだ。

彼の目的を尋ねると、Gusは答えた。「こういう記事は議論のもとになる偏った内容だ。そうでないというと嘘になる。こうした内容の記事にはきちんとバランスをとってもらいたい。特にTRには。私は以前、WSJがよくするように、反対意見も並行して公開するのはよいアイデアだと提案したことがある。もしTRがそうしたら、私がコメントする理由が少なくなるだろう。それにもかかわらず、TRは気候やエネルギー関連の記事で意見が偏っている」と。私は、MIT Technology Reviewが「反対意見」(気候は産業界からの排出ガスには影響されないとか、もし地球温暖化が現実になっても、人類は問題化するまでに効果的に対処できるなど)は掲載できないと説明しようとした。なぜならこうした意見は事実ではないからだ。とはいえ、立派な科学者である@zdzisiekmに対して無学な編集者でしかない私の意見は無力だ。

私たちは同様の軽蔑するようなコメントも受け取っている。政治的立場の違いや、MIT Technology Reviewがモンサント等の遺伝子組換え作物の作り手の「PROPAGANDA AND LIES」を公開したと信じる読者や“filthy and unsound practice of vaccination”と自閉症との関連についての真実を隠していると疑う人々からのものだ。こうした読者に共通するのは陰謀の視点だ。彼らは科学的あるいは経済的なコンセンサスは危険な権威付けを強化するゲートキーパーであると考えており、しばしば個人的な利得や政党の利益に結びついていると思っている。そして誠実なコメンターが反対意見が黙殺されることはないことを示さなければならないと考えているのだ。TechnologyReview.comのすべてのコメンターがこの種の人ばかりではないが、最近ではこうした人々は隅に追いやられ、他の読者からコメントを控えるよう促されている。

私たちの喜ばし …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. What’s on the table at this year’s UN climate conference トランプ再選ショック、開幕したCOP29の議論の行方は?
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る