リアルさをさらに高めた拡張現実ゴーグルが製品化まであと一歩
遠近感を再現し、距離の異なるモノに視線を移したときの違和感を減らした拡張現実ゴーグルが製品化まであと一歩の段階だ。親機として高性能なパソコンは不要とされており、近い将来、AR市場で十分なシャアを確保できる可能性がある。 by Rachel Metz2017.04.10
現在、デジタル映像と現実世界をうまく合成できる拡張現実ゴーグルといえば、マイクロソフトのHoloLensやメタのMeta 2など、数社の製品があるだけだ。
そのARゴーグル市場に、もう1社参入する。スタートアップ企業のアバガントは、すでに「Glyph」というヘッドホンをわざと90度ずらして装着したような見た目のパーソナルシアター用ゴーグルを499ドルで販売中だ。アバガントが完成させたのは、透明ディスプレイ内蔵ゴーグルの試作版だ。アバガントによれば、「光照射野(light field)」テクノロジーにより、バーチャルな物体が、現実の物体と変わらないくらい自然に見えるという。光照射野とは、光線が物体に反射するときに生み出される模様のことで、光照射野を再現すれば、拡張現実の映像がシャープになる効果がある。あるひとつの場面でも、それぞれの物体の奥行き(たとえば腕の長さほど離れたミニカーと遠く離れた家など)が違っても、視点を移したとき、楽に焦点を合わせられる映像になる。
拡張現実ゴーグルと光照射野と概念には聞き覚えがあるかもしれない。潤沢な資金を持つ秘密主義のスタートアップ企業マジックリープは、ここ何年かの間、光照射野による優れた拡張現実テクノロジーを開発している、と主張してきた。2014年、マジックリープはまだ巨大な試作品をMIT Technology Reviewの取材時に実演してみせたが、実用的なゴーグルとはいえない状態だった。以来、マジックリープは開発中のゴーグルについて情報を小出しに開示しているが、現在のところ製品の発売時期は不明のままだ。
一方でアバガント(本社カリフォルニア州ベルモント)は先日、共同創業者のエドワード・タン最高技術責任者(CTO)が、試験段階とはいえ、あと少しで最終製品と呼べそうなゴーグルをMIT Technology Reviewの取材時に実演してみせた。ゴーグルは床に置いたコンピューターとケーブル接続されており(タンCTOはモバイル機器でも稼働するという)、実物のソファといす、コーヒーテーブル等が置かれたリビングルーム風の場所で、ゴーグルを私に装着した。
ゴーグルを装着すると、ゆっくりと私の前をカメが泳いで横切り、家具の足元を小さな青い魚の群れが泳ぎ回るのを眺められた。太陽系のバーチャル模型に広がる小惑星帯の中心を見下ろしたり、緑色のトカゲのような奇妙なスーツに身を包んだ女性のまつげや髪の毛を調べたりもした。すべてはリビングルーム内での出来事だ。
映像は、すぐ手前でも少し離れたモノもはっきりと映し出された。手前のデジタル映像から奥のまた別の映像へ、あるいはその逆へと視線を移しても、問題はまったく感じられなかった。現実の世界がそうであるように、焦点を合わせた物体はくっきりと、焦点を他の物に合わせるとボケて表示される。デジタル世界なのか現実世界なのか、それぞれの位置がバラバラであっても、モノは違和感なく見えた。
スタンフォード大学助教授で、スタンフォード・コンピューテーショナル・イメージング研究所のゴードン・ウェッツスタイン所長によれば、デジタルなモノと物理的モノの間に整合性があることは、拡張現実において非常に重要だという。整合性があれば、拡張現実全体の体験は目にやさしくなる。
タンCTO同様、ウェッツスタイン所長も「とにかくよりリアルになるんです」という。
ただし、アバガントのゴーグルでは、以前の取材で体験した、他の拡張現実で可能だったこと(モノをつついたり、操ったりすること)はできなかった。またHoloLens同様、アバガントのゴーグルの視野はかなり狭く、リアルとバーチャルが混在した世界を、長方形の枠を通して見ることになり、あたりを見渡しにくい。
ゴーグルにどんなテクノロジーを使っているのか、アバガントは正確には説明してくれなかった。タンCTOによれば、光照射野用の光学部品が加わったことを除けば、Glyphと似ているという。Glyphは、3色の発光ダイオード(LED)の光を、非常に小さな鏡で埋め尽くした極小チップを通して網膜に投影し、映像を再現する仕組みだ。
アバガントは、ゴーグルで具体的どんな事業をするのかも明らかにしていない。ただしタンCTOは「製造開始の準備はだいぶ整っています」という。
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クレジット | Image courtesy of Avegant |
- レイチェル メッツ [Rachel Metz]米国版 モバイル担当上級編集者
- MIT Technology Reviewのモバイル担当上級編集者。幅広い範囲のスタートアップを取材する一方、支局のあるサンフランシスコ周辺で手に入るガジェットのレビュー記事も執筆しています。テックイノベーションに強い関心があり、次に起きる大きなことは何か、いつも探しています。2012年の初めにMIT Technology Reviewに加わる前はAP通信でテクノロジー担当の記者を5年務め、アップル、アマゾン、eBayなどの企業を担当して、レビュー記事を執筆していました。また、フリーランス記者として、New York Times向けにテクノロジーや犯罪記事を書いていたこともあります。カリフォルニア州パロアルト育ちで、ヒューレット・パッカードやグーグルが日常の光景の一部になっていましたが、2003年まで、テック企業の取材はまったく興味がありませんでした。転機は、偶然にパロアルト合同学区の無線LANネットワークに重大なセキュリテイ上の問題があるネタを掴んだことで訪れました。生徒の心理状態をフルネームで記載した取り扱い注意情報を、Wi-Fi経由で誰でも読み取れたのです。MIT Technology Reviewの仕事が忙しくないときは、ベイエリアでサイクリングしています。