KADOKAWA Technology Review
×
始めるならこの春から!年間サブスク20%オフのお得な【春割】実施中
カバーストーリー 無料会員限定
Gene Therapy Trial Wrenches Families as One Child’s Death Saves Another

最新DNA療法で
兄姉は妹弟のために死ぬ

新しいDNA治療法は、脳疾患に発症前の子どもを救えるが、犠牲を伴うことがある。 by Antonio Regalado2016.07.20

イタリアの遺伝子治療の重要試験は、まれな脳疾患に苦しむ家族を歓喜させ、同時に悲嘆させている。同じ病気を持つ兄弟姉妹で運命が等しくならないからだ。

ネブラスカ州オマハ在住のアメリカ人、エイミー・プライスさんは、2011年に普通の母親なら避けたい苦しい選択を強いられたという。1人の病気の子どもをミラノの賃貸アパートに残して世話人の手に委ね、もう1人の子をイタリアの病院に連れて行き、救命治療を受けさせたのだ。

プライスさんの息子ジョバンニは現在6歳の健康児だが、娘のリビアナは治療を受けずに2013年に亡くなった。

サン・ラファエル・テレソン遺伝子治療研究所による研究は、MLD(異染性白質ジストロフィー)の進行を止める効果がきわめて高い。MLDは子どものときに発症する遺伝性疾患で、脳の白質を破壊し、麻痺や認知症を引き起こす。

治療では、1つの遺伝子の正しいコピーを子どもの骨髄に注入する。しかし、この治療は症状の発現前でないと効果がない。リビアナのような発症済みの子どもたちの大半は手遅れなのだ。例外は、1人の子どもの発病が警告となり、別の子どもに発病リスクがあることを家族が気付く場合だ。この場合、遺伝子テストと生化学テストで年下の幼児に発病の恐れがあるかを調べらる。

オレゴン州を本拠地とする慈善基金でMLD 基金のディーン・スール理事長は「1人の子どもを失い、もう1人の子どもを救うのですから、心が張り裂けそうになります。親にとっては苦しい選択ですが、この治験ではそれが何度も起きています」

治験中のMLD治療は、ほとんどワクチンのように予防的に作用するように設計された世界初の遺伝子治療だという。2歳頃、恐ろしい症状が発現する前の幼児の早い時期に治療に着手すれば、疾患の急激な発病を停止させるか、完全に防止できる。

イタリアの医師たちは、9人の子どもに関する研究結果を6月に高級医学誌ランセット誌で発表した。9人のうち8人の子どもは疾患の進行が中断したか、まったく発病することなく就学年齢に達した。2010年に治験を開始し、現在ハーバード大学医学部で遺伝子治療スペシャリストを務めているアレッサンドラ・ビッフィ・ユニット長は、子どもたちの追跡期間が十分でないため、根治を宣言するには時期尚早だという。

「最低限、発病の時期を大幅に遅らせる効果はあります」とビッフィ・ユニット長はいう。

遺伝子治療は科学プロジェクトから本格的な医療へと歴史的な飛躍を遂げている。立ち上げの失敗が30年続いた後、子どもたちを襲う免疫不全症に対する世界初の治癒的な遺伝子治療が今年ヨーロッパで承認された。MLD治療と同様に、免疫不全症の遺伝子治療もミラノの遺伝子治療センターで開発された。このセンターはDNA科学の育成の場になっており、プライス家の問題のような問題を取り上げて資金を集める国営テレビ・テレソンの支援を受けている。住宅改装業の収入でなんとか食いつないでるプライス家は、8人の子どものうち3人がMLDと診断されている。

いずれの治療法も、治療の商業化を目指している英国の大手製薬会社グラクソ・スミスクライン (GSK) によって購入されている。正しいDNAコードを細胞に加えることによって、遺伝子治療は1回の治療で破壊的な疾患を消失させる可能性がある。MLDプログラムを指揮しているGSKアンドリュー・シェンカー副社長は、 …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
【春割】実施中!年間購読料20%オフ!
人気の記事ランキング
  1. Promotion MITTR Emerging Technology Nite #32 Plus 中国AIをテーマに、MITTR「生成AI革命4」開催のご案内
  2. AI companions are the final stage of digital addiction, and lawmakers are taking aim SNS超える中毒性、「AIコンパニオン」に安全対策求める声
  3. This Texas chemical plant could get its own nuclear reactors 化学工場に小型原子炉、ダウ・ケミカルらが初の敷地内設置を申請
  4. Tariffs are bad news for batteries トランプ関税で米電池産業に大打撃、主要部品の大半は中国製
▼Promotion
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る