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気候技術プロジェクト、トランプ政権下の3カ月で80億ドル超が中止
Stephanie Arnett / MIT Technology Review | Adobe Stock, Envato
$8 billion of US climate tech projects have been canceled so far in 2025

気候技術プロジェクト、トランプ政権下の3カ月で80億ドル超が中止

米国のインフレ抑制法で発表されたバッテリーや太陽光発電、風力発電などのプロジェクトへの投資が、トランプ政権下で相次いで中止や縮小になっている。大規模プロジェクトだけでも総額80億ドルに上ることが分かった。 by Casey Crownhart2025.04.30

この記事の3つのポイント
  1. 2025年第1四半期に米国で80億ドル規模の気候関連プロジェクトが中止・縮小された
  2. 連邦政策の見直しや中国からの輸入品への関税引き上げなどが要因とみられる
  3. 不確実性の高まりにより多くのプロジェクトが中止・縮小・遅延している
summarized by Claude 3

2025年は気候技術にとって厳しい年となっている。新たな報告書によると、2025年第1四半期には少なくとも16件の気候関連の大規模プロジェクトが米国で中止・縮小、または閉鎖され、その総額は80億ドルに上るという。

プロジェクトの中止自体は毎年発生している。だが、無党派の政策グループであるE2の新しい報告書によると、今回の数字は近年の平均よりもはるかに多いという。この傾向は、連邦政策の大幅な見直しなど複数の要因によるものだ。

ここ数カ月、ホワイトハウスは、インフレ抑制法(IRA)で約束されたものを含む連邦投資の削減に取り組んできた。バッテリーなどのエネルギー技術のサプライチェーンを支配している中国からの輸入品に対する新たな関税も、この不安定な環境に拍車をかけている。また、電気自動車(EV)のようないくつかの技術に対する需要が期待を下回っている状況もある。

E2はこれまで、製造業や大規模エネルギー・プロジェクトへの新規投資を追跡してきたが、現在では定期レポートを拡張し、プロジェクトの中止・閉鎖、縮小も含めるようになった。E2のデータによると、2022年8月から2024年末までの間に中止・閉鎖、または縮小されたプロジェクトは18件。これに対し、2025年は最初の3カ月ですでに16件のプロジェクトが中止になっている。

「これほどはっきり数字に現れるとは思っていませんでした」。E2のコミュニケーション・ディレクターであるマイケル・ティンバーレイクはこう話す。「実際に分かっているのは、市場に多くの不確実性があるということです」。

この大きな数字にもかかわらず、E2のデータは網羅的なものではない。E2は大規模な投資のみを追跡しており、より追跡が難しい小規模なプロジェクトは含まれていない。また、企業が一時的に停止しているプロジェクトも含まれていない。

「クリーンエネルギー分野における信じられないほどの不確実性により、多くのプロジェクトが中止、縮小、あるいは単純に遅延しています」。ウェルズリー大学のジェイ・ターナー教授(環境学)はこう話す。ターナー教授は、「ビッグ・グリーン・マシン(Big Green Machine)」と呼ばれるデータベースで、米国のクリーン・エネルギーのサプライチェーンを追跡するチームも率いている。

インフレ抑制法が2022年に可決されて以来、多くのプロジェクトが発表されており、ある程度の入れ替わりがあるのは正常なことである。そのため、今後も中止になるプロジェクトはさらに増えるだろうとターナー教授は言う。特に、非常に多くのバッテリー/EV関連のプロジェクトが発表されたため、「最良のシナリオであっても」供給が需要を上回っていただろうとターナー教授は述べている。中止されたプロジェクトのいくつかは、適正規模化、つまり供給と需要を一致させた結果である。

もちろん、進行中のプロジェクトも多数ある。数百カ所の製造施設が建設中または稼働中だ。しかし、より安定した政策環境であるときよりもその数は少ないとターナー教授は指摘する。

中止になったプロジェクトには、2024年10月に米国エネルギー省から6億7000万ドルの融資を獲得したアスペン・エアロゲル(Aspen Aerogels)のジョージア州の工場も含まれている。この工場では、電池パックの火災を防止または遅らせる材料を製造する予定だった。2025年2月の決算説明会で、同社幹部らは、ロードアイランド州の既存施設と中国やメキシコなど他国でのプロジェクトに注力する計画だと述べた。アスペン・エアロゲルにさらなるコメントを求めたが、回答は得られなかった。

ここ数年の間に発表された何百ものプロジェクトは、相次ぐ中止にもかかわらず、建設中または稼働中である。しかし、これは気候技術に対する不確実性の高まりを示す初期の兆候なのだ。

「ビジネス環境を見ると、次に何が起こるのか分からず、どちらの方向に進むべきか躊躇している状況です」とE2のティンバーレイクは述べる。

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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