10年後に日本を超える? AIの電力問題を読み解く4つのグラフ
国際エネルギー機関(IEA)の報告によれば、世界のデータセンターの電力消費量は10年以内に日本の総電力消費量を上回る可能性がある。ただ、その影響は限定的で、2030年までの電力需要増加の8%程度にとどまるという。 by Casey Crownhart2025.04.24
- この記事の3つのポイント
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- AIの普及により世界のデータセンターの電力需要が急増している
- 当面はデータセンターの電力供給を化石燃料に頼らざるを得ない
- データセンターは人口密集地に集中し電力網に負荷をかけている
ニュースを見ると、AIとエネルギーに関連する見出しを目にしない日はほとんどないが、それが実際に何を意味するのかについては、多くの人が戸惑っているのが現状だ。
確かに、AIが電力需要の増加を促すと読んだことはあるだろう。しかし、それが現在および将来の電力網の状況とどう関係するのかは、見出しだけでは見えてこないことが多い。それは、この分野で働いている専門家にとっても同様である。
国際エネルギー機関(IEA)の新しい報告書では、AIとエネルギーの関係について詳しく分析されている。物事をより明確にするために、いくつかのデータを見ておく価値があるだろう。以下に、AIとエネルギー需要に関する重要なポイントを示した4つのチャートを紹介する。
1. AIは大量の電力を消費するため、世界はその需要に対応するために電力供給の増強を迫られている
この点は最も明白だが、繰り返す価値がある。AIの普及は急速に進んでおり、それに伴ってデータセンターの電力需要も増加するだろう。IEAの報告書の要約では、「AIは学術的な探求から、数兆ドル規模の利害関係を伴う産業へと進化した」と述べられている。
データセンターの電力消費量は2020年時点で300テラワット時未満であったが、今後5年間で1000テラワット時近くに達する可能性がある。これは、現在の日本の総電力消費量を上回る規模である。
現在、世界のデータセンター容量の約45%を米国が占めており、次いで中国が続いている。この2か国は、2035年まで世界の大部分の容量を占め続けると見られている。
2. データセンターの電力は、当面は石炭や天然ガスなどの化石燃料に依存するが、2030年以降は原子力と再生可能エネルギーが重要な役割を果たす可能性がある
IEAの報告書は、再生可能エネルギーがデータセンターの電力供給源となる可能性について比較的楽観的であり、2035年までの世界全体の需要増加分の約半分が風力や太陽光といった再生可能エネルギーで賄われると予測している(欧州では、新たな電力需要の85%を再生可能エネルギーが満たすと見込まれている)。
ただし、近い将来においては、天然ガスと石炭も拡大すると見られている。IEAの予測によれば、今後10年間で主に米国において175テラワット時の追加的な天然ガスが電力需要を支えるとされている。先日発表されたブルームバーグNEF(BloombergNEF)の別の報告書では、化石燃料がIEAの見積もり以上に大きな役割を果たす可能性があり、2035年までの追加発電量の3分の2を占めると指摘されている。
IEAのデータによれば、大量の温室効果ガス排出を伴わずに事業を運営したいと考える大手テクノロジー企業に支持されている原子力エネルギーは、2030年以降にその存在感を増し始める可能性がある。
3. データセンターは、今後10年間に予想される電力需要の増加のごく一部に過ぎない
エネルギーについて語るなら、家電や産業、電気自動車(EV)についてもっと注目すべきである。電力需要は、さまざまな要因によって増加している。今後2030年までの間、電気自動車、空調、家電はそれぞれ、データセンターを上回る電力需要を生み出すと予測されている。全体として、データセンターが2030年までに占める電力需要の割合は、わずか8%強にとどまる。
とはいえ、この傾向には地域ごとの興味深い違いがある。経済成長が著しい地域では、データセンターよりも空調などによる電力需要の増加が顕著になるだろう。一方で、米国では、消費者や産業部門の電力需要が長年横ばいで推移してきたため、高性能コンピューティング(HPC)による新たな電力需要の増加が、より大きな割合を占めることになると見られる。
4. データセンターは集中的に配置され、人口密集地域の近くにあることが多いため、電力網にとって特有の課題をもたらしている
電力網にとって、大量の電力を消費する施設は珍しい存在ではない。セメント工場、アルミニウム製錬所、石炭鉱山などは、いずれも一か所で膨大な電力を必要とする。しかし、データセンターはそれらとは異なる、独特な存在である。
まず、データセンターは密集して設置される傾向がある。世界全体で見ると、データセンターは総電力需要の約1.5%を占めているが、アイルランドではその割合が20%、バージニア州では25%に達する。この傾向は今後も続くと考えられる。なぜなら、米国で現在開発中のデータセンターの半数が、既存のクラスター内に集中しているからである。
さらに、データセンターは、工場や鉱山といった他のエネルギー集約型施設と比べて、都市部により近い場所に設置される傾向がある。
データセンターが互いに密接しており、かつコミュニティにも近接しているため、都市部における化石燃料の使用増加や、地域電力網への負荷といった形で、周辺地域に大きな影響を及ぼす可能性がある。あるいはその両方の問題が同時に生じることもあり得る。
全体として、AIとデータセンターは、広義には電力需要の主要な推進力となっていくだろう。それがすべてではないにせよ、今後も注視すべきエネルギー情勢の中で独自の存在を示す部分となる。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。