
惑星防衛の最終戦略
科学者たちが探る
「核爆発」研究の舞台裏
地球に衝突する危険がある「シティキラー」級の小惑星。その脅威から人類を守るため、科学者たちは最後の手段を真剣に検討している。米国立研究所の巨大実験装置「Zマシン」での画期的な実験は、宇宙空間での核爆発によるX線が小惑星を押し返せるという理論を証明した。 by Robin George Andrews2025.04.18
- この記事の3つのポイント
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- 地球に迫る「シティキラー」小惑星の脅威に対し、核爆発による防衛法が研究されている
- サンディア研究所のZマシンを用いた実験ではX線で小惑星を押し返す効果が実証された
- 国際法で宇宙での核兵器使用は禁止だが、人類存続のため研究は慎重に進められている
近い将来、あるいは遠い将来のある日、地球と衝突するコースをたどるサッカー・スタジアムほどの長さの小惑星が見つかるかもしれない。運がよければ、広大な海の真ん中に落ちて無害な津波を発生させるだけで終わるか、無人の砂漠地帯に落下するだろう。だが、もし都市部に衝突すれば、現代における最悪の自然災害の1つが起こることになる。小惑星は大気圏を猛烈な勢いで通過する際、バラバラに分裂し始め、大部分はわずか数秒で地上に到達する。あらゆる固体を瞬時に液体に変え、地表に巨大な衝突クレーターを作り出す。大型核兵器が引き起こすような巨大な爆風が、衝突地点からあらゆる方向に猛烈なスピードで広がるだろう。何十キロも離れた場所にある家屋が段ボールのように折れ曲がり、数百万人の人々が死亡するかもしれない。
地球上に暮らす80億人にとって幸運なことに、惑星防衛(小惑星の衝突を防ぐ科学)は非常に活発な研究が実施されている分野である。天文学者たちは空を見張り、脅威をもたらすかもしれない新たな地球近傍天体を常に探している。地球に衝突しそうな小惑星が見つかった場合に備え、衝突を防ぐ方法の開発に熱心に取り組んでいる研究者たちもいる。
有効な方法が少なくとも1つあることが、すでに分かっている。無人の宇宙船を小惑星に激突させて、地球から遠ざけるのだ。2022年9月に米航空宇宙局(NASA)が実施した「二重小惑星軌道変更実証実験(DART)」で、それが実際に可能であることが示された。ソーラーパネルの翼を持つ小型車サイズの半自律型宇宙船を、ある(無害な)小惑星ディモルフォスに時速約2万2500キロメートルで衝突させ、より大きな小惑星ディディモスを周回するように軌道を変えることに成功したのだ。
しかし、状況によっては、小惑星を物理的にぶつけるだけでは地球を守るのに十分ではない可能性がある。もしそうであれば、別の方法が必要になるかもしれない。それは、現実世界でテストするのが難しい方法、つまり核爆発である。
科学者たちはコンピューター・シミュレーションを使い、核爆発による地球防衛の手段の可能性を探っている。理想的に言えば、科学者たちは冷酷で客観的な実用的データに基づき、モデルを構築するだろうが、そこに問題がある。核兵器を宇宙に送り込むことは国際法に違反し、政治的緊張を煽る危険性がある。さらに、地球に被害が及ぶ可能性もある。ロケットの故障によって、放射性のある破片が大気圏に放出されるかもしれないのだ。
だがここ数年の間に科学者たちは、この実験における制限を回避するため、独創的な方法を考案し始めている。米国ニューメキシコ州アルバカーキにあるサンディア国立研究所で化学エンジニアを務める物理学者、ネイサン・ムーア博士は、科学者チームを率いてこの取り組みを2023年に開始した。サンディア研究所は、米国の核兵器プログラムにおいてエンジニアリング部門の役割を果たしている半秘密施設である。その複合施設内に、警告表示と配線で構成された円筒形の金属の迷宮のような装置「Zパルスパワー施設(Zマシン)」がある。ダイヤモンドを溶かすほど高いエネルギーを発生させられる装置だ。
研究チームは、Zマシンを使って核兵器のX線爆風、すなわち小惑星を打ち返すために使われる放射エネルギーを、非常に小さくて安全な規模で再現できるかもしれないと考えている。
その詳細を整理するのには時間がかかったものの、ムーア博士らの研究チームは2023年7月までに準備を整え終えた。研究チームは制御室の中で、奇妙な音を立てる機械を遠くから監視しながら待った。この機械の中心部には、小惑星の代わりに2つの小さな岩片が置かれており、ボタンを押すとX線の大きな渦がその岩片に向かって雷のように放たれる。そのX線によって岩片が跳ね飛ばされれば、これまでは純粋に理論上の現象だったものが証明されることになる。核兵器を使って小惑星を地球から逸らすことができるのだ。
この実験は、「これまで一度も実施されることがありませんでした」。ムーア博士は言う。もし成功すれば、そのデータは地球上のすべての人々の安全に貢献するものになる。うまくいくだろうか。
一枚岩と瓦礫の山
小惑星の衝突は、他の自然災害と同じ部類の事象である。眠れなくなるほどその可能性を心配するべきではない。しかし運が悪ければ、道を外れた宇宙の岩石に叩き起こされることになるかもしれない。「私が生きている間に小惑星が地球に衝突する確率は、非常に小さなものです。しかし、もし衝突するとしたら、私たちはどうすればいいでしょうか?」ムーア博士は問いかける。「それは、関心を持つ価値のあることだと思います」。
ハリウッドの大ヒット映画でおなじみの「巨大な小惑星」のことは忘れよう。文明を危険にさらす力を持つ直径1キロメートル以上の宇宙岩石は確かに存在するし、そのうちのいくつかは地球の軌道に近い軌道を周っている。しかし、そのような小惑星は非常に巨大なため、天文学者たちはすでにそのほぼすべてを発見しており、衝突の脅威をもたらすものはないことが分かっている。
むしろ最も懸念されているのは、一段階小さな、長さ140メートル程度の小惑星だ。そのような小惑星は地球の近傍に約2万5000個存在すると考えられており、そのうち発見されているのは半数足らずである。1日単位で見た衝突の確率は極めて低いものの、そのような比較的小規模な小惑星でも、地球に衝突し、人口密集地域に落ちれば大きな被害を出す可能性がある。そのような力を持つ中規模の小惑星のことを、天文学者たちは「街殺し(シティキラー)」と呼んでいる。
もし地球に衝突しそうなシティキラーが見つかったら、それを止める方法が必要になる。例えば、小惑星を「破壊」し、地球から完全に逸らすか、大気中で無害に燃え尽きる程度の破片にする。あるいは、小惑星の進行方向を変えて、地球にぶつからない経路に押しやる何らかの方法かもしれない。
小惑星の破壊は、しばしば最後の手段と考えられてきた。大きな小惑星を複数のより小さな破片にするものの、誤ってそれらの破片を致命的な影響力を残したまま地球に向かわせてしまう可能性があるからだ。小惑星の進行方向を変えることはより安全で洗練された方法と見なされている。向きを変える方法の1つは、「キネティック・インパクター(運動学的衝突装置)」と呼ばれる宇宙船を差し向けることだ。キネティック・インパクターは破壊槌のようなもので、小惑星に衝突して、その勢いで小惑星を軽く押して地球から遠ざける。
NASAのDARTミッションはこの方法の効果を実証したが、重要な注意点がいくつかある。まず、完全に地球から外れるようにするためには、何年も前に小惑星の進行方向を逸らす必要がある。小惑星の発見が遅すぎたり、小惑星が大きすぎたりすれば、DARTのようなミッション1回だけでは完全に進行方向をそらすことができない。地球を救うのに十分な距離まで小惑星を押しやるためには、何機かの、もしかすると数多くのキネティック・インパクターを、小惑星の片側に毎回完璧に衝突させる必要があるかもしれない。それは軌道力学的に難しい注文であり、宇宙機関が進んで賭けに出るような方法ではない。
向きを変えるのであれば、小惑星の隣で核兵器を爆発させるのが最良の選択肢になる可能性がある。この方法であれば小惑星の片側にX線が照射され、数百万分の1秒で岩石質の表面が激しく砕け、蒸発する。その表面から宇宙空間に噴出する破片の流れがロケットのように作用し、小惑星を反対方向に押しやるだろう。「キネティック・インパクターでは不十分なシナリオが複数あり、核爆発装置を使わなければならなくなるでしょう」と、ムーア博士は説明する。
この考え方は新しいものではない。数十年前、ブラウン大学の惑星地質学者で衝突の専門家でもあるピーター・シュルツ教授は、カリフォルニア州にある核抑止力と核物理学研究に重点を置く米国の別の研究機関、ローレンス・リバモア国立研究所で惑星防衛について講演した。 講演の後、水爆の父であり …
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