化学工場に小型原子炉、ダウ・ケミカルらが初の敷地内設置を申請

This Texas chemical plant could get its own nuclear reactors 化学工場に小型原子炉、ダウ・ケミカルらが初の敷地内設置を申請

ダウ・ケミカルとXエナジーが次世代小型原子炉の建設許可を米規制当局に申請した。工場敷地内への原子炉設置は初となり、産業施設の脱炭素化モデルとなる可能性がある。 by Casey Crownhart2025.04.10

米国テキサス州のある化学工場で、将来的に原子炉が電力供給を担う可能性が浮上している。実現すれば、原子炉を敷地内に設置する初の事例となる見込みだ。この工場ではプラスチックなどの素材を製造しており、将来的には電力を大量に消費するデータセンターや産業施設のモデルケースとなる可能性もある。

プロジェクトを推進しているのは、ダウ・ケミカルとXエナジーの2社。両社は先週、米国で原子力を規制する原子力規制委員会(NRC)に対して建設許可を申請した。

実際に原子炉が稼働するまでにはまだ数年を要するとみられるが、今回の申請は、プロジェクトにとって、そして産業プロセスへの先進的原子力技術の導入という観点からも、大きな節目となる。

「この申請は長い間待ち望んでいたものです」と語るのは、Xエナジーのハーラン・バウアーズ上級副社長だ。同氏によれば、Xエナジーは2016年からNRCと協力関係を築き、2018年には初めての規制関与計画を提出しているという。

2020年には、米国エネルギー省が、次世代原子力技術への支援を目的とした「新型炉実証プログラム」の対象企業のひとつとしてXエナジーを選定。また、Xエナジーとダウがテキサス州シードリフトにある工場での共同開発を発表してからは、すでに2年が経過している。

シードリフト工場では、食品・医薬品向けの包装用プラスチックをはじめ、不凍液、石鹸、塗料などに使用される化学製品を年間約180万トン生産している。現在は、敷地内にある天然ガスプラントが蒸気と電力の両方を供給しているが、設備の老朽化が進んでおり、代替手段の検討が急務となっていた。

MITテクノロジーレビューの取材に対する書面回答の中で、ダウのエドワード・ストーンズ事業部長は、「ダウは、耐用年数を迎えた資産を、安全性・信頼性が高く、かつ炭素排出量の少ない技術へと置き換える好機と捉えました」と述べている。

同氏によれば、Xエナジーが設計した次世代原子炉は、高温の蒸気を供給できることから、シードリフトの工場にとって適した選択肢となったという。

Xエナジーの原子炉は、現在稼働している大規模な原子力発電所に比べて小型であり、使用する燃料や冷却方式も異なる。設計は高温ガス炉で、自己完結型の小球状核燃料(ペブル)の上をヘリウムガスが流れる構造になっている。燃料自体の温度は摂氏約1000度に達し、ペブルの周囲を流れるヘリウムは最大で約750度にまで加熱される。高温のヘリウムはその後、発電機を通って高温・高圧の蒸気を生成し、これを配管で直接産業機器へ供給したり、電力に変換することができる。

シードリフト施設には、Xエナジーの「Xe-100」原子炉が4基設置される予定だ。それぞれが約200メガワット相当の蒸気、または約80メガワットの電力を供給できる能力を持つ。

このような化学工場では、安定した蒸気供給が不可欠だとXエナジーのバウアーズ上級副社長は強調する。通常運転時には、4基のうち2基が蒸気を、1基が電力を供給し、残りの1基は地域の送電網への売電に使用される。仮に1基が停止した場合でも、工場の運転を維持できるだけの電力が確保される設計になっているという。

計画の前進は、関係企業にとって追い風となるだけでなく、先進的原子炉技術全体にとっても大きな成果だと、非営利シンクタンクのニュークリア・イノベーション・アライアンス(Nuclear Innovation Alliance)で上級アナリストを務めるエリック・コトロンは語る。「産業分野の脱炭素化に向けた新型原子炉導入が、現実的な段階に入っていることを示すものです」。

先進的な原子力技術の導入を目指す企業は他にも存在するが、今回の計画は、工場敷地内に原子力発電を組み込む初の事例となる可能性がある。そのため、たとえば大規模データセンターにクリーン・エネルギーを供給しようとするテック企業などにとって、産業と新しい原子力技術の直接的な統合のあり方を示す先例となるかもしれない。

NRCによるこの建設許可申請の審査には、最長で2年半かかる可能性がある。また、原子炉を稼働させるには、別途運転許可の取得も必要となる。ダウによれば、運転開始は「2030年代初頭」が見込まれている。