よくある話だが、聞いてほしい。テクノロジー企業が、後のビジネスモデル創出に役立てたいと願い、大量の顧客データを蓄積した。だが、そのビジネスモデルは結局、実現されないまま会社は行き詰まり、顧客データが宙ぶらりんになってしまう。
かつて遺伝子鑑定サービスで人気を博した「トゥエンティースリー・アンド・ミー(23andMe)」が2025年3月24日に破産申請し、この手の話の最新事例となった。現在、1500万人の遺伝子データの運命が破産裁判官の手に委ねられている。3月26日の公聴会で、裁判官は、23andMeがサービス利用者のデータに対する申し出を求めることについて許可を与えた。しかし、利用者にとってより良い結末となる可能性はわずかながら残っている。
破産申請がされた後すぐ、政治家やプライバシー擁護団体が、23andMeのサービス利用者は遺伝子データが悪意ある者の手に渡らないように自らのアカウントを削除すべきだと主張し始めた。これは個々の利用者にとっては良いアドバイスだ。しかし、実際にそうする人はほとんどいないだろう。利用者たちはそのような推奨があることに気づかないかもしれない。そもそも、なぜ心配しなければならないのか分からないかもしれない。存在すら覚えていないアカウントなどずっと以前から放置しているのかもしれないし、ただ日常生活の混沌の中で忙殺されているだけかもしれない。
これらが意味するのは、人々がすでにその存在を忘れてしまっていることが、このデータの本当の価値を生んでいるということだ。23andMeの収益がごくわずかであることを考えると (検査を受けた人でサブスクリプション契約をしているのは4%未満)、新たなオーナーが誰であれ、そのデータを収益化する新たな方法を見いださなければならない状況は避けられそうにない。
自分自身や自分の祖先についてもう少し詳しく知りたかっただけの利用者にとって、これはひどい取引だ。なぜなら、遺伝子データは永遠だからだ。連絡先情報は時間が経過すれば古い情報となる可能性がある。パスワードやメールアドレス、電話番号、さらには住所でさえ、いつでも変更できる。しかし、将来の健康リスクのプロファイルを作成しようとする企業に最高提示額で遺伝子データを販売するサイバー犯罪者であれ、あなたの身元を特定しようとしている政府であれ、あなたの遺伝子データを入手した者は皆、明日も明後日も、そしてそれ以降もずっとそのデータを持ち続けるのだ。
自分の遺伝子データが漏洩した利用者は、今被害を受ける可能性があるだけでなく、将来それが悪用さ …