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AIデータセンター
中国でバブル崩壊か?
需要低迷で大量放置の実態
MITTR
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China built hundreds of AI data centers to catch the AI boom. Now many stand unused.

AIデータセンター
中国でバブル崩壊か?
需要低迷で大量放置の実態

AIインフラに大量の資金が流れ込んだものの、投機的な投資と需要の低迷が衝突。ディープシーク(DeepSeek)登場でトレンドが変わり、中国のデータセンター・バブルは崩壊しつつある。 by Caiwei Chen2025.03.31

この記事の3つのポイント
  1. 中国のAIデータセンター建設ブームで需要予測を誤り多くの施設が未稼働で放置
  2. ディープシークの登場で企業のAIインフラニーズが推論重視にシフトした
  3. 中国政府はAI競争力強化のため失敗プロジェクトの統合を進める見通しだ
summarized by Claude 3

1年ほど前、シャオ・リーはウィーチャット(WeChat)上でエヌビディア(Nvidia)製チップの取引が溢れているのを目にしていた。不動産開発業者からデータセンターのプロジェクト・マネージャーに転身したリーは、2023年に中国のAIブームに惹かれて人工知能(AI)インフラの分野に進出した。

当時、リーの周囲のトレーダーたちは、米国の輸出規制対象となっている高性能エヌビディアGPU(画像処理装置)の出荷を確保したと自慢していた。それらの多くは海外ルートを通じて深センに密輸されていた。需要が最も高まった時期には、AIモデルの訓練に欠かせないエヌビディアの「H100」チップ1個が、闇市場で最高20万元(2万8000ドル)で取引されることもあった。

現在、リーのウィーチャット・フィードや業界のグループチャットにおける状況は様変わりしている。トレーダーたちは取引について慎重になり、価格は再び現実的な水準に戻っている。一方、リーがよく知る2つのデータセンター・プロジェクトは、投資利益が見込めないと考えている投資家からの追加資金調達に苦戦しており、プロジェクトを率いる業者は余剰GPUの売却を余儀なくされている。「皆が売りに出しているようですが、買い手はほとんどいません」とリーは語る。

ほんの数か月前までは、政府や民間の投資家による支援を背景に、データセンター建設ブームが最高潮に達していた。しかし、現在では多くの新設施設が使われずに放置されている。MITテクノロジーレビューの取材に応じた現地の関係者(請負業者、GPUサーバー会社の幹部、プロジェクト・マネージャーなど)によると、このようなデータセンターを運営する企業の大半は経営難に陥っているという。中国の地元メディア「甲子光年(JAZZYEAR)」と「36Kr」は、中国で新設されたコンピューティング・リソースの最大80%が未使用のままだと報じている。

AIモデルの訓練にGPUを貸し出すことは、新しいデータセンターの主なビジネスモデルであり、かつては確実に成功すると考えられていた。しかし、ディープシーク(DeepSeek)の台頭とAIを取り巻く経済環境の急激な変化によって、業界は停滞しつつある。

ランド研究所(RAND Corporation)のテクノロジー担当上級顧問であるジミー・グッドリッチは、「中国のAI産業が直面しているこの成長痛は、経験不足の企業や地方政府が誇大広告に踊らされ、現在の需要に適していない施設を建設した結果です」と指摘する。

その結果、多くのプロジェクトは失敗し、エネルギーが浪費され、データセンターは市場価値が大幅に低下した「不良資産」となり、投資家は市場価格を下回る価格で売却しようと躍起になっている。こうした状況は最終的に政府による介入を招く可能性があるとグッドリッチ顧問は考える。「中国政府が介入し、引き継いでより有能な事業者に引き渡すことになるでしょう」と述べた。

混沌とした建設ブーム

2022年後半にチャットGPT(ChatGPT)が爆発的な勢いで登場すると、中国は迅速に対応した。中央政府はAIインフラを国家の優先事項に指定し、地方政府に対し、いわゆる「スマート・コンピューティング・センター」(AIに特化したデータセンターを指す造語)の開発を加速するよう促した。

市場調査会社のKZコンサルティングによると、2023年と2024年には、内モンゴルから広東省に至るまで、各地で500件を超える新しいデータセンター・プロジェクトが発表された。国営業界団体である中国通信工業協会データセンター委員会によると、新設されたデータセンターのうち少なくとも150件は2024年末までに完成し、稼働している。国有企業、上場企業、国営ファンドは、AI先駆者としての地位を確保しようと、これらのデータセンターへの投資に列をなした。地方政府は、経済を活性化させ、自らの地域を重要なAIの中心地として確立できることを期待して、これらのプロジェクトを大々的に推進した。

しかし、このような高額な建設プロジェクトが続く中、中国の大規模言語モデル(LLM)に対する熱狂は勢いを失いつつある。2024年だけでも、独自の大規模言語モデルを開発しようと中国の中央インターネット規制機関である中国サイバースペース管理局(CAC)に登録した企業は144社を超えていた。しかし、中国紙「経済観察報」によると、同年末に大規模モデルの訓練に積極的に投資していた企業は、そのうちのわずか1割程度だった。

中国の政治制度は高度に中央集権化されており、地方政府の役人は通常、地方での役職任命を通じて昇進していく。その結果、多くの地方指導者は、長期的な発展よりも、上層部の支持を得られることが多い、すぐに結果が出る短期的な経済プロジェクトを優先する。注目度の高い大規模なインフラ・プロジェクトは、長い間、地方の役人が政治的にキャリアアップするための手段となってきた。

新型コロナウイルス感染症のパンデミック後の景気後退は、この動きをさらに強めた。かつて地方経済の屋台骨だった中国の不動産セクターがここ数十年で初めて不振に陥ったことで、代わる成長の原動力を見つけようと地方役人は躍起になった。一方、かつて隆盛を誇ったインターネット産業も停滞期を迎えていた。この空白の中で、AIインフラが新たな景気刺激策として選ばれた。

「AIはアドレナリン注射のような感じでした」とリーは表現している。「かつては不動産に …

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