「クラウド」を超えて——次世代データセンターは宇宙を目指す
米国企業がデータストレージを搭載した月着陸船を打ち上げた。将来は消費電力や環境負荷が課題となる地球上のデータセンターに代わり、太陽エネルギーが豊富で冷却が容易な宇宙空間での運用を目指す。同様の動きはほかにもあるが、実現性はどうか。 by Tereza Pultarova2025.03.12
- この記事の3つのポイント
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- 月面や宇宙空間にデータセンターを設置する計画が進行中である
- データセンターの宇宙移転により環境問題の改善が期待されている
- 宇宙でのデータセンター運用には技術的課題が残されている
米国フロリダ州セントピーターズバーグに拠点を置くローンスター・データ・ホールディングス(Lonestar Data Holdings)は先月、インターネットの父の1人であるヴィントン・サーフやフロリダ州政府のデータを格納した靴箱サイズの装置を、インテュイティブ・マシーンズ(Intuitive Machines)の月着陸船「アテナ(Athena)」に乗せて打ち上げた。3月7日の未明にアテナは月に着陸する(日本版注:着陸後に横転し機能停止)。同社は、一部の科学技術者が近年気にかけてきた問いを明確に試す最初の企業になる。「データセンターを地球外へ移すときが来たのだろうか?」という問いだ。
何しろ電力を大量に消費するデータセンターは、貴重な土地をむさぼり尽くし、電力網に負担をかけ、水を消費し、騒音を発しながら、世界中でキノコのように増殖している。地球軌道上や月面、あるいは月の近くにデータセンターを構築すれば、そうした問題の多くを改善できるかもしれない。
ローンスターの社長兼最高収益責任者(CRO)であるスティーブ・アイズレーにとって、データ・ストレージを月面に置く大きな利点はセキュリティにある。「突き詰めると、データのバックアップを置く場所として、月は最も安全な選択肢になり得ます」とアイズレー社長は言う。「月へのハッキングはより困難で、侵入もはるかに難しい。自然災害や停電、戦争など、地球上のあらゆる問題の影響を受けません」。
ローンスターの装置は、最高性能のノートPCに匹敵する8テラバイトのストレージを備えている。装置が機能を維持できるのは、月の夜が訪れ、気温が急降下して太陽光発電が役立たなくなるまでの、ほんの数週間だ。しかし同社は、この期間で十分、実用性を確認できると見込んでいる。データのダウンロードやアップロード、安全なデータ転送プロトコルの検証などの確認を予定している。
ローンスターはさらに、より大規模な計画を持っている。同社は早ければ2027年に、地球と月のラグランジュ点(L1)に設置した多数の人工衛星を使って商用データ・ストレージ・サービスの開始を目指しているのだ。L1は、月面から6万1350キロメートル上空にある重力安定点である。そこに常に地球が見える位置に宇宙船を配備すると、継続的なデータ・アクセスが可能になる。
同様の野心的な計画を持つ企業はほかにもある。今後数カ月以内に宇宙ステーションに設置するプロトタイプ・サーバーの打ち上げを予定しているのは、宇宙開発企業の米アクシオム・スペース(Axiom Space)だ。同社は、国際宇宙ステーション(ISS)への民間宇宙飛行士の短期派遣で最もよく知られている。2027年までに同社は、低軌道衛星に独自の宇宙実験モジュールを載せて、計算ノードを構築したい考えだ。
ワシントン州レドモンドに拠点を置くスタークラウド(Starcloud)も、宇宙でのデータ処理の需要に賭けている。昨年12月に1100万ドル以上の資金を調達し、以降もさらに資金を調達している同社は、今年後半にエヌビディア(Nvidia)製GPU(画像処理装置)を搭載した小型のデータ処理衛星を打ち上げたいと考えだ。
アクシオム・スペースは、物理的に手出しができない場所に地球上のデータをバックアップするというサービスを超えて、宇宙空間でのコンピューティング能力という、差し迫った需要を見込んでいる。地球観測や宇宙観測のために増え続けている現代の人工衛星は、通信帯域幅の制限に苦しんでいる。ユーザーが衛星観測から洞察を得るには、衛星画像はまず地球上に散在する地上局にダウンロードされ、処理のためにデータセンター …
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