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中国で「AI占い」ブーム、ディープシークが引き金に
Sarah Rogers/MITTR | Photos Getty
人工知能(AI) Insider Online限定
How DeepSeek became a fortune teller for China’s youth

中国で「AI占い」ブーム、ディープシークが引き金に

不安と悲観が広がる中国社会で、若者たちが伝統的な占術とAIを融合させた新たな流行に熱中している。占いとの相性の良い国産大規模言語モデル「DeepSeek-R1」の登場もブームを牽引している。 by Caiwei Chen2025.03.11

この記事の3つのポイント
  1. ディープシークを使った八字算命占いが中国の若者の間で大流行している
  2. AI占いは若者の不安を和らげ、伝統的スピリチュアルへの関心を高めている
  3. 商業化が進む一方で、規制上のリスクや誤った助言を与える危険性も
summarized by Claude 3

31歳のチャン・ルイは、ノートPCの画面の光を受けながら、中国のソーシャルメディアで見つけたプロンプトを慎重に入力していた。「あなたは八字算命の達人です。私の運命を分析してください。私の身体的特徴、人生における主要な出来事、金運について教えてください。私は1993年6月17日午前4時42分に杭州市で生まれた女性です」。

中国で最も先進的なAI推論(Reasoning)モデル「DeepSeek-R1(ディープシークR1)」は、わずか15秒でこれに応答した。彼女の運勢の詳細な分析が表示され、さらには2025年から2027年が「火」の時期にあたるため、彼女のキャリアにとって縁起の良い期間になるという重要な洞察が示されている。

チャンは安堵の息をついた。最近、大手テック企業のプロダクト・マネージャーという安定した職を辞め、独立して事業を始めたばかり。自分の決断が正しかったと感じた。彼女はこれまで、人生の大きな決断をする際には伝統的な中国の占い師に頼り、1回につき最大500人民元(約70ドル)を支払って助言を求めてきた。しかし今では、ディープシークに頼るようになっている(チャンの出生に関する詳細はプライバシー保護のため事実から変更している)。

「私は、ディープシークにまるで預言者のように話しかけるようになりました」。チャンは言う。それは彼女のスピリチュアルな部分を支えるだけでなく、中国では依然として偏見が根強く、ほとんど利用できない心理療法の便利な代替手段になり得るとも説明する。「思考や感情で頭がいっぱいになったとき、ディープシークを頼るようになりました」。

これはチャンだけの話ではない。ディープシークがオープンAI(OpenAI)に対する国産の挑戦者として台頭する中、中国の若者たちは人工知能(AI)を活用し、中国文化に根付く占いの習慣を再び取り入れ始めている。ウィーチャット(WeChat)がトレンド・キーワードをモニターするために提供している「ウィーチャット・インデックス(WeChat Index)」によると、中国最大のソーシャルプラットフォームであるウィーチャットでは、2024年2月だけで「ディープシーク占い」に言及した投稿が200万件を超えた。中国のソーシャルメディア全体で、ユーザーはAIが生成した占い結果を共有し、占いのプロンプト・エンジニアリングを試し、古代のスピリチュアルなテキストを再読するなどしている。それらすべてで、ディープシークが活用されているのだ。

AI八字算命ブーム

「ディープシーク占い」の急増は、中国社会に不安と悲観論が広がる中で起きている。新型コロナウイルス感染症のパンデミック後、若年層の失業率は2023年6月に21%というピークに達し、その後多少の改善はあったものの、2024年末でも16%の高水準が続いている。2024年のGDP成長率もここ数十年で最も低い水準だった。ソーシャルメディアでは、何百万人もの中国の若者が自分たちを「最後の世代」と呼び、不透明な未来のもとで結婚や子育てに消極的な姿勢を示している。

「経済が停滞し、雇用率が低下している今、スピリチュアル慣行はコントロールの錯覚を生み出し、安心感を与えてくれます」。こう話すのは、香港中文大学の宗教学助教授であるティン・グオだ。

グオ助教授は、「中国の世俗的な社会では、人々が公の場で宗教やスピリチュアルな探求をすることはできません」と指摘する。そのため、多くのスピリチュアル慣行が、コンピューターやスマートフォンの画面といった、よりプライベートな環境でなされている。

チャンが初めてディープシークについて知ったのは、2025年1月、R1のリリースに関するニュースがウィーチャットのフィードを埋め尽くしたときだった。好奇心から試してみると、その精度に驚かされた。「他のAIモデルとは異なり、スムーズで、まるで人と対話しているように感じました」とチャンは言う。自称スピリチュアル愛好家の彼女は、すぐに八字算命を使って自身の運勢を占うテストをし、その結果が驚くほど洞察に富んでいることを発見した。

八字算命、またの名を四柱推命は、生年月日と出生時間をもとに個人の運命を分析する、中国の伝統的な占術である。木・火・土・金・水の五行のバランスを解析することで、キャリアの成功、人間関係、財運を占う。従来、この占術を正確に読み解くには、五行の複雑な相互作用を解釈できる熟練の占い師が必要だった。これらの専門家は、機械では再現が難しい、創造的かつ詩的な解釈を提供することで知られていた。

しかし、八字算命は構造化されたパターンベースのロジックに基づいているため、推論モデルとの相性が非常に良い。ディープシークは、その人の五行のバランスの偏りを詳細に分析し、今後の人生の変化を予測するだけでなく、キャリアの方向性についても提案することができる。たとえば、「木」の要素が強いユーザーには、「火」の業界(テクノロジー、エンターテインメント)でのキャリアを推奨したり、「水」の特性(適応力、直感)を持つパートナーを見つけるよう助言したりする。一方で、「金」(意志の強さ、決断力)に支配されたライフサイクルの場合、「火」(情熱、思慮深さ)を取り入れることでバランスを取るべきだといったアドバイスをしてくれる。

この論理的な構造に魅力を感じたのが、北京在住でテック業界に勤めるウェイシー・チャン …

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