未来の職種:医療用解禁に備える「マジック・マッシュルーム栽培者」

Job titles of the future: Pharmaceutical-grade mushroom grower 未来の職種:医療用解禁に備える「マジック・マッシュルーム栽培者」

マジック・マッシュルームに含まれる幻覚剤成分が米国ではうつ病の治療薬として有望視されつつある。治療薬としての承認に備え、合法的な栽培に取り組んでいる人物がいる。 by Mattha Busby2025.03.10

シロシビンやMDMA(メチレンジオキシメタンフェタミン)などの幻覚剤(サイケデリックス)には即効性があり、持続的な抗うつ効果がある可能性が研究で示されている。米国食品医薬局(FDA)は2024年8月、幻覚剤を用いた医療治療(MDMAベースの療法)の初の申請を却下したが、これらの薬物は医学の主流への道を歩み始めているようだ。バイオテクノロジー企業であるコンパス・パスウェイズ(Compass Pathways)が主導するシロシビンに関する研究は、試験が複雑であることもあって遅れているが、すでにデータは、いわゆるマジック・マッシュルームに含まれる幻覚性化合物に有望な兆しを示している。最終的には、FDAがうつ病治療薬として承認するかどうかを決定することになる。もし承認された場合、それは膨大な合法的な医療市場を開くことになるが、そのとき、誰がキノコを栽培するのだろうか?

スコット・マーシャルはすでに栽培している。カナダのブリティッシュコロンビア州にある製薬会社オプティミ・ヘルス(Optimi Health)の菌類学の責任者であるマーシャルは、北米でシロシビン・マッシュルームの栽培ライセンスを持つごく限られた人の一人である。FDAが承認した産業規模で医薬品用シロシビンを生産できるようにするには、栽培者や製造業者に膨大な下準備が必要だ。だからこそ、オプティミは有利なスタートを切ろうと必死になっている。

黎明期の産業

マーシャルは、生まれたばかりの幻覚剤産業の最先端にいる。カナダでは、限定的なコンパッショネート・アクセス・プログラムが確立される2022年まで、シロシビン・マッシュルームの生産は合法的に許可されていなかった。「私たちの仕事は、安全性、品質、一貫性の最高水準を確保しながら、シロシビン・マッシュルームの大規模な合法栽培を先駆的に実施することです」と、マーシャルは言う。

オプティミは2024年に、2200万ドル以上の投資を受けて、カナダ当局から医薬品グレードのシロシビンを、合法的使用が可能な限られた数の地域にある国外の精神科医に輸出するための医薬品製造認可を受けた。オレゴン州では監督付きのマッシュルーム・ジャーニーが合法化され、オーストラリアではPTSDやうつ病に対するシロシビン療法が承認されている。さらに、シロシビンを医療目的で使用することを支持する研究が増える中、各国政府や州・地方自治体の間で、医療目的のサイケデリック・マッシュルームに対する法的規制の撤廃を検討するケースが増えつつある。トランプ政権が米国における連邦改革を支持する可能性が高いという指摘もある。

しかし、医療用であろうとなかろうと、合法市場は依然として小さい。そのため、今のところ、マーシャルのマッシュルーム(2022年にオプティミに入社して以来、200キログラム以上栽培している)のほとんどは、同社の保管庫に保管されている。「生産基準と規制順守を設けることで、私たちは、幻覚剤の科学的理解と治療目的での入手可能性の拡大に貢献しています」と、マーシャルは言う。

技術を習得する

今年40歳のマーシャルは、マッシュルームの栽培を始める前、不動産管理の仕事に就いていた。しかし、2014年に栽培経験のある友人が1冊の書籍『Mushroom Cultivator: A Practical Guide to Growing Mushrooms at Home(マッシュルーム栽培者:自宅でキノコを栽培する実践ガイド)』(1983年、未邦訳)を贈ったことで、状況は一変した。その友人は、キノコの「種」に相当する胞子紋も彼に与えた。マーシャルは、その胞子紋から、ゴールデンティーチャーという品種のミナミシビレタケを3個栽培した。これは、彼が初めてこの分野に参入したときの経験である。「私は、自分の健康と幸福のために栽培を続け、そして、他の人々を助けたいと思うようになったのです」と、マーシャルは言う。

2018年には、自身の会社ラ・マッシュルームズ(Ra Mushrooms)を設立し、違法なシロシビンを含む数種類の栽培キットを販売。栽培したキノコの写真をインスタグラムに定期的に投稿していた。2022年にはオプティミに採用され、地下栽培者から合法的な市場での栽培者へと転身した。「信じられないような夢」が叶った瞬間だった。

マッタ・バズビーは薬物政策とサイケデリック文化を専門とするジャーナリストである。