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米遠隔医療、デジタルでも「州境の壁」 政府対応に遅れ
Sarah Rogers/MIT Technology Review | Photos Getty
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Doctors and patients are calling for more telehealth. Where is it?

米遠隔医療、デジタルでも「州境の壁」 政府対応に遅れ

米国では医師は通常、自身が免許を持っている州でのみ医療行為が許可されている。コロナ禍で遠隔医療が普及し、州を越えた遠隔医療のニーズが高まっているが、政府はそれに応えられていない。 by Isabel Ruehl2025.02.25

18歳のマギー・バーニッジは嚢胞性線維症とずっと付き合って生きてきた。しかし、大学入学のために故郷の州を離れてすぐ、肺炎を患って肝不全に陥った。彼女は故郷の主治医にどうにかして連絡を取りたいと思った。マギーが乳児期にこの病気の診断を受けて以来のかかりつけで、彼女にとって一番効果のある治療法を熟知している医師だ。しかし、州をまたいでの遠隔医療をすることは許可されていなかった。その地域の病院と、マギーの複雑な病歴についてよく知らない医師が対応するしかなかったのだ。

「マギーが必要としていたのは、多くの場合、身体的な検査ではありませんでした」。マギーの母であるエリザベスは語る。「必要なのは会話でした。次はどのような検査を受けるべきか。前の検査の結果はどうだったのか。彼女のことをよく知っている医師がいればそれで良かったのです」。

しかし、医師は通常、自身が免許を持っている場所でのみ医療行為が許可されている。つまり、米国では州を越えて診察をするには患者のいる州の免許も持っていなければならないのだ。そして大半の医師は1つか、せいぜい2つの免許を持つに留まる。これにより、医師でありブラウン大学公衆衛生学部で医療政策を教えるアティーフ・メロトラ教授が「馬鹿げている」と評すような事態が常態化している。たとえば希少がんを患う女性が、化学療法で免疫系の弱った体で飛行機に乗り、何千キロメートルも離れた場所の専門医の診察を受けたり、希少疾患を患う赤ちゃんがアリゾナ州とマサチューセッツ州を何度も往復したりするような状況だ。

現在、資格のある医師は、自分の州に加え、それ以外の州でも医療行為をする申請ができる。だが、これは負担が大きく、現実的でないプロセスとなり得る。たとえば、あなたがミネソタ州のがん専門医で、カンザス州から治療を希望する患者がやってきたとしよう。その患者はおそらく、再度ミネソタ州まで来る手間を省くため、できるだけ遠隔医療による経過観察の診察をしてほしいと希望するはずだ。

しかし、あなたがカンザス州の医師免許を持っていない場合(おそらく持っていないだろう)、いきなりカンザス州で医療行為を始めることはできない。そのためにはまず、州間医療ライセンス協定(他州での正規免許取得プロセスを合理化するための制度だが、年間700ドルの費用がかかる)を通じてか、あるいはカンザス州医事委員会に直接申請する必要がある。そうなれば手続きの手間が大きくなりすぎるかもしれない。長時間働くあなたが必要な書類をまとめる時間をどう確保すればいいというのだろうか。医師が50州すべてで免許を申請するのには無理があるだろう。

そうなると、患者は治療を受ける機会を失うか、診察のためミネソタ州まで移動する負担を負わなければならない。患者が望む場合に遠隔医療を受ける方法がひとつだけある。州境を越えてすぐ遠隔医療を受けることだ。医師がいる病院まではるばる移動するよりはまだ望ましい選択肢かもしれない。治療に対するこのような障害から、医療提供者、政策立案者、患者の間では、特定の状況下では、医師はどこでも患者を診療できるようにすべきだという考えが広まってきている。

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