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増え続ける世界の電力需要、AIだけじゃない要因は?
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What's driving electricity demand? It isn't just AI and data centers.

増え続ける世界の電力需要、AIだけじゃない要因は?

世界の電力需要は今後も増加していく。増加分の半分以上は新興国や発展途上国の経済発展によるものであり、話題のAIデータセンターによる需要はさほど大きなものではない。 by Casey Crownhart2025.03.05

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

国際エネルギー機関(IEA)の新たな報告書によると、電力需要は2024年に4.3%増加し、2027年まで毎年4%近く伸び続けるという。

この話に聞き覚えがあるとすれば、最近、主にデータセンターの建設ラッシュから、エネルギー需要を心配するニュースが次々と流れていたからかもしれない。データセンターは特に、あらゆる場所に普及しているように見えるAIを動かすために必要なものである。それらのテクノロジーは送電網からより多くの電力を吸い上げているが、それはもっとはるかに大きな物語の小さな一部に過ぎない。

この需要拡大の背景は複雑だ。増大した需要の多くは中国やインド、そして東南アジア諸国によるものだ。エアコン、電気自動車(EV)、工場もすべて、需要増に一役買っている。そしてもちろん、データセンターを完全に無視することはできない。今回は、2025年における世界の電力について知っておくべきいくつかの重要なことを紹介し、物事がこれからどう進んでいくのか予測してみよう。

注意を向けるべきは中国、インド、東南アジア諸国

今から2027年にかけて増加する電力需要のおよそ85%は、発展途上国や新興国によるものと見込まれる。中国の電力需要は特に大きく膨れ上がり、昨年は全世界の電力需要増加分の半分以上を占めていた。

中国の電力需要増大は業界別に見ても、驚異的だ。たとえば2024年には、太陽光発電パネル、バッテリー、EVの生産のためだけに、約300テラワット時に相当する電力を消費している。これは、イタリアが1年間に消費する電力と同じくらいの量である。そして、上述の業界は急速に成長している。

重工業の活況、エアコン設置台数の増加、堅調なEV市場はすべて、中国の電力需要を増大させている。インドや東南アジア諸国も、経済成長とエアコンの普及拡大により、平均を上回る電力需要増大が見込まれる。

そして、まだ表面化していない多くの需要増大要因が存在する。アフリカ全土には、信頼できる電力網をいまだに利用できていない人々が6億人もいるのだ。

データセンターは世界的に見ればそれほど大きな要因ではないが、無視できない

昨年発表されたIEAの別の予測によると、今から2030年にかけて増大する世界の電力需要のうち、データセンターが占める割合は10%未満と見込まれている。これは、EV、エアコン、重工業などによる需要増大よりも少なくなると見られている。

しかしデータセンターは、米国や、欧州の多くの国々のような先進国にとって、成長シナリオの主要な要素である。それらの国々のほとんどでは、エネルギー効率が向上したこともあり、過去15年にわたって電力需要が横ばいで推移するか、減少してきた。データセンターがその傾向を逆転させている。

米国を例にとってみよう。IEAの報告書が指摘する他の調査結果によれば、データセンターが最も増加している10州では、2019年から2023年にかけて電力需要が10%増加した。他の40州の需要は、同じ期間に約3%減少している。

ここで1つ注意すべきは、データセンターに今後何が起こるのか、誰もはっきりとはわからないということだ。特にAIを稼働させるのに必要なデータセンターには、何が起こっても不思議ではない。その予測は定まっておらず、小さな変化がこのテクノロジーに必要なエネルギーの量を劇的に変える可能性がある(ディープシーク(DeepSeek)のドラマを参照してほしい)。

ここで私が興味深いと思ったことが1つある。中国が今後の電力需要増大のもう1つの要因として、データセンターが有力だと考えている可能性があることだ。その電力需要は今から2027年にかけて倍増すると予測されている(ただし、繰り返しになるが、どのような予測も確かなものではない)。

これらすべてが気候変動に意味することは複雑である

電力需要の増加は、気候変動には良い影響だと考えることができる。天然ガス暖房システムではなくヒートポンプを使えば、電力使用量が増えたとしても、温室効果ガス排出量の削減に役立つ可能性がある。しかし、電力需要が増す中で忘れてはならない重要なことは、世界の多くの場所がいまだに化石燃料に大きく依存しているという事実だ。

こうしたすべての状況の中で希望が持てるのは、需要の伸びを十分カバーできるほど、再生可能エネルギーや低排出量電源が拡大していることだ。太陽光発電の急速な普及だけで、2027年までに予想される需要増の半分をまかなえるだけの電力をもたらす。原子力発電もまた、間もなく過去最高の発電量に達すると予想されている。フランスの原子力依存への回帰、日本での再稼働、そして中国とインドでの原子炉新造が、世界的な原子力産業をより強化することになる。

しかし、再生可能エネルギーを追加して電力需要を満たすだけでは、自動的に化石燃料を送電網から引き離すことにはならない。既存の石炭・天然ガス発電所は、いまだに世界中で稼働している。排出量を削減するには、低炭素電源が十分なスピードで成長し、新たな需要を満たすだけでなく、より排出量の多い既存の電源に取って代わる必要がある。

送電網の拡大は、本質的に悪いことではない。家にエアコンを持つ人や、太陽光発電パネルを作る工場が増えることはすべて、明らかに「ポジティブ」なことであると私は主張したい。しかし、今後は需要拡大のこの猛烈なペースに遅れずについていくことが課題となるだろう。それが、排出量を削減する私たちの能力に大きな影響を与える可能性がある。

MITテクノロジーレビューの関連記事

送電設備は、より多くの人々により多くの電力を届ける上で鍵となる。ある開発者が米国の送電網をつなぎ合わせるための取り組みを止めない理由を本誌のジェームス・テンプル編集者が報じている。

本誌のヤン・ズェイ記者(当時)がこの記事で説明しているように、バーチャル発電所は中国で拡大しているEV向け電力需要を満たすのに役立つ可能性がある。

データセンターからの電力需要が増加しており、同様に温室効果ガス排出量も増加している。2024年12月の記事で本誌のジェームズ・オドネル記者が説明しているように、その排出量はさらに増加する勢いだ。


中国EVメーカーがロボットにシフト?

robot made with humanoid head, car engine, chassis, wheels and industrial robot arms holds an electric drill and smaller car.

 

中国のEV市場は競争が激しく、一部の自動車メーカーは人型ロボットに軸足を移している。本誌のチェン・ツァイウェイ記者が最新の記事で説明しているように、EVの利益率が低下する中で、財務上の必要性がこれを後押ししている。

気候変動関連の最近の話題

  • トランプ政権が資金を凍結し、雇用制限を設けたことで、米国は山火事に対して脆弱になる可能性がある。プロパブリカ
  • 鉄鋼とアルミニウムの輸入を対象とする米国の関税が来月発動されることになっており、主要な送電網設備にとって問題となる可能性がある。それらの金属が使用されている変圧器は、供給不足に陥っている。(ヒートマップ
  • ある代替ジェット燃料メーカーが、すでに決まっていた14億4000万ドルの融資を獲得した。トランプ政権は約束していた融資の取り消しを模索しているが、ある地元議員がホワイトハウスに圧力をかけた結果、この融資の話は前に進められた。(カナリー・メディア
  • 3代にわたる石油・ガス産業労働者が方向転換し、地熱発電のための掘削に専念することにした。このQ&Aは、より多くの労働者が化石燃料産業から再生可能エネルギー産業へと移行するとどのようなことになる可能性があるか、興味深く探っている。(インサイド・クライメート・ニュース
  • トランプ政権は、何百件もの化石燃料プロジェクトを迅速に進めようとしている。米陸軍工兵隊は、緊急指定を使って許可にかかる時間を短縮している。(ニューヨーク・タイムズ
  • 日本政府が新たな気候目標を決定する。日本は今後15年間で、温室効果ガス排出量を2013年の水準から70%以上削減し、2050年までに実質ゼロを達成することを目指す。再生可能エネルギーと原子力発電の拡大がこの計画の鍵となる。(AP通信
  • 資金凍結は、米国のEV充電器に対する連邦融資の状況を大きく混乱させた。 しかし、すでに決定している政府基金と民間の両方からの資金供給により、充電器の建設は今もまだ前進している。(ワイアード
  • 米国海洋大気庁(NOAA)は、トランプ政権による予算削減の最新の標的となった。NOAAは天気予報を提供しており、産業界はNOAAのデータに依存している。(ブルームバーグ
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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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