細菌からストレッチ素材、ファッション「脱プラ」に挑むベンチャー
MIT Technology Review

This company is trying to make a biodegradable alternative to spandex 細菌からストレッチ素材、ファッション「脱プラ」に挑むベンチャー

グッド・ファイブス(Good Fibes)は、伸縮性のある合成繊維からプラスチックを取り除こうとしているスタートアップ。大腸菌のタンパク質を使って伸縮繊維を作っている。 by Megan DeMatteo2025.03.17

あなたが最後に伸縮性のあるものを身に付けたのは、それほど前のことではないはずだ。ヨガパンツや靴下など、伸縮素材はいろいろなものに使われている。そして、その人気はますます高まっている。世界のスパンデックス(伸縮性合成繊維)市場の規模は、2024年12月の時点で80億ドル近くに達し、今後10年間は毎年2〜8%成長していくと見込まれている。快適な着心地という点では良いニュースかもしれないが、環境の点ではそれほど良いニュースではない。ほとんどの伸縮性素材には石油由来の繊維が使われており、分解するのに何世紀もかかるマイクロプラスチックを放出する。また、天然素材の衣服に伸縮性プラスチック繊維が少量でも含まれていると、リサイクルが不可能になることがある。

グッド・ファイブス(Good Fibes)の共同創業者であるアレクシス・ペーニャとローレン・ブレイクは、研究室で作られた伸縮繊維を使ってこの問題に取り組もうとしている。タフツ大学とイリノイ州のアルゴンヌ国立研究所を拠点に活動する2人は、シルクエラスチン様タンパク質(SELPs)と呼ばれる素材を使って、生分解可能な繊維を開発している。

「真の循環型社会は原材料から始めなければなりません」とペーニャ共同創業者は語る。「多くの業界が循環を話題にしていますが、繊維業界では原材料そのものから改善しなければなりません」。

組換えDNAから設計されたSELPsは、シルクとエラスチンの主要な構成タンパク質からヒントを得た模倣タンパク質で、引張強度、染料親和性、弾力性などの特性をカスタマイズできる。シルクのアミノ酸配列(グリシンアラニンやグリシンセリンなど)は繊維に強度を与え、エラスチンの分子構造は伸縮性を高める。これらの分子をレゴブロックのように組み合わせれば、少なくとも理論上は、理想的な柔軟な繊維が得られる。

創業初期のスタートアップであるグッド・ファイブスは、一般的な細菌である大腸菌のタンパク質を使って伸縮繊維を作っている。製造プロセスは、タンパク質をゲル状の物質に変換し、湿式紡糸法で繊維化するものだ。これらの繊維は、不織布(糸を使って織るのではなく、繊維を絡ませたり圧縮したりして作る布)に加工されるか、縫い糸や紡ぎ糸に加工されて織布(糸を使って織られた布)が作られる。

しかし、規模の拡大は依然として課題だ。ブレイク共同創業者によると、テスト用の見本生地1枚を作るために、少なくとも1キログラムの微生物素材が必要だという。この繊維はまた、伸縮性、耐久性、耐湿性をすべて適切な割合で備えていなければならない。「私たちはまだ、さまざまな化学物質を加えてこれらの問題を解決しようとしているところです」と同共同創業者は説明する。そのため、細菌よりも大量に入手可能な小麦グルテンのような植物由来のタンパク質も試している。

研究機関スペキュラティヴ・テクノロジーズ(Speculative Technologies)のバイオマテリアル専門家であるティモシー・マギーによると、環境配慮型の繊維スタートアップにとっての最大のハードルは製造だという。「世界中の多くの研究所やスタートアップが、優れた品質を持つ組換えタンパク質の開発に成功しています。ですが、それらのタンパク質を実用的な繊維にするのに苦労することが多いのです」とマギーは説明する。

日本のバイオマテリアル企業であるスパイバー(Spiber)は、2007年に同社が初めて開発した発酵プロセスを使用して、組換え大腸菌タンパク質から繊維を生産するための商業施設を2022年に開設した。その翌年、16年間の試作を経て、ザ・ノース・フェイス(The North Face)、ゴールドウイン(Goldwin)、ナナミカ(Nanamica)、ウールリッチ(Woolrich)が、スパイバーのタンパク質をベースとする繊維を使用した製品を量販する最初の大手ブランドになった。

グッド・ファイブスはスパイバーと同様の成果を、伸縮性繊維で達成したいと考えている。グッド・ファイブスは2024年に米国エネルギー省から20万ドルの助成金を受けたことをきっかけに、最近、不織布タイプの繊維の実験を開始した。最も一般的な不織布素材は、外科用マスクやペーパータオルなどの紙のような製品に使用されるものだが、ペーニャ共同創業者はよりソフトで伸縮性のある、軽量フェルトに近いものを想定する。同社は助成金を使って今年1月、3Dバイオプリンターを導入した。不織布の生地見本パターンを作り始める予定だ。

もし成功すれば、不織布伸縮素材は織物よりもスケールしやすい選択肢になるだろう、と専門家のマギーは見込んでいる。しかし、彼はこう付け加えた。「不織布はあまり構造的ではないので、一般的にあまり丈夫ではありません。グッド・ファイブスは、どの程度の強度と耐久性を、どの程度の規模、どの程度のコストで生産できるかを示す必要があります」。

追加資金を得てグッド・ファイブスは今後、織物と不織布の両方の布地を開発する計画だ。

一方、グッド・ファイブスはすでに、(同社の)将来の生地サンプルを試すことを熱望している大手スポーツウェア1社と関係を築いている。「『生地サンプルができたら、私たちに送ってください!』と言っています」と語るブレイク共同創業者は、2年以内に商品化に漕ぎ着けられると考えているそうだ。

それまでは、グッド・ファイブスのファッション・イノベーションは研究室で形作られていくことになる。ブレイク共同創業者は言う。「私たちは分子レベルまで小さく考えることで、大きなことを実現しようとしています」 。

ミーガン・ディマテオはニューヨーク市在住のジャーナリスト。