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マイクロソフト、初の「トポロジカル量子チップ」 安定性に強み
トポロジカル量子ビットを8個搭載した「Majorana 1(マヨラナワン)」チップ/Courtesy Microsoft
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A new Microsoft chip could lead to more stable quantum computers

マイクロソフト、初の「トポロジカル量子チップ」 安定性に強み

マイクロソフトは、トポロジカル量子ビットをベースとする新方式の量子コンピューターの研究成果を発表した。十分な安定性を実現するといい、初となる8量子ビットのチップも発表している。 by Rachel Courtland2025.02.21

この記事の3つのポイント
  1. マイクロソフトがトポロジカル量子ビットの実現に大きな進展があったと発表
  2. 安定的でスケールアップが容易な量子コンピューターの構築に有望とされる
  3. 数年以内に数千個の量子ビットを備える誤り耐性量子コンピューターの構築を目指す
summarized by Claude 3

マイクロソフトは2月19日、トポロジカル量子ビット(キュービット)の実現という、20年にわたる探求に大きな進展があったことを発表した。トポロジカルキュービットは、より安定的でスケールアップが容易な量子コンピューターを構築するための特殊なアプローチである。

研究者や企業は長年にわたり量子コンピューターの構築に取り組んできた。量子コンピューターは、複雑な材料のシミュレーションや新しい材料の発見をはじめ、多くの潜在的な応用を可能にする劇的な新しい能力を解き放つ可能性がある。

しかし、その可能性を実現するためには、演算を実行するのに十分な安定性を持つ、十分に大規模なシステムを構築する必要がある。グーグルやIBMが追求している超伝導量子キュービットなど、現在研究が進められている技術の多くは非常にデリケートであるため、結果として得られるシステムは、エラーを修正するために多数の追加的なキュービットが必要になる。

マイクロソフトはかなり前から、もっと大幅に安定的なコンポーネントを使用することでオーバーヘッドを削減できる可能性のある、別のアプローチに取り組んできた。「マヨラナ準粒子」と呼ばれるそのようなコンポーネントは、実際の粒子ではない。特定の物理システムの内部において、特定の条件下で起こる可能性のある、特別な挙動パターンである。

このアプローチの追求には、これまで挫折がなかったわけではない。たとえば2018年には、マイクロソフトと関係のある研究者たちが、注目を浴びた論文を撤回した。しかし、その後でこの研究の取り組みを社内に引き入れたマイクロソフトの研究チームは、現在のところ、数年以内にも数千個のキュービットを備える誤り耐性量子コンピューター(FTQC)を構築できる見込みであると主張している。また、それぞれが100万個ほどのキュービットを備えるチップを構築する具体的な計画も持っているという。100万個という数は、量子コンピューターが本当にその能力を発揮し始めるポイントとなり得る、おおよその目標である。

マイクロソフトはこのほど、その研究過程における初期の成功をいくつか発表した。2月19日付けでネイチャー誌に掲載された、システムの基本的な検証を説明する論文に合わせる形で、トポロジカルキュービットのテストを重ねていることや、8個のキュービットを備えるチップに配線をつないだことを公表している。

「多くの血と汗と涙、そして研究過程での非常に困難な多くの技術的課題の解決なくして、100万個のキュービットを達成することはできません。そのようないずれの努力についても、控えめに言いたくはありません」と、マイクロソフトの技術フェロー、チェタン・ナヤックは話す。ナヤックは同社の研究チームを率い、先駆けてこのアプローチに取り組んでいる。とはいえ、「私たちにはかなり確信を持つ実現までの道筋があり、見通しも立っていると、私は考えています」という。

マイクロソフト社外の研究者たちは、慎重ながらも楽観的な見方をしている。「(この研究が)非常に重要な節目に到達したようで、とてもうれしく思います」。コンピューター科学者のスコット・アーロンソン教授は話す。アーロンソン教授はテキサス大学オースティン校の量子情報センターで責任者を務めている。「この研究成果が覆されることなく、このまま積み重ねられていくことを願っています」。

偶数と奇数

量子コンピューターを構築する最初のステップは、壊れやすい量子状態で存在できるキュービットを構築することである。キュービットは、古典的なコンピューターのビットのように0と1のどちらかではなく、その2つが混ざり合った状態にある。キュービットをそのような状態に維持し、互いにリンクさせることは、繊細な作業である。そしてノイズの多いハードウェアを補うエラー訂正手法の改良には、長年にわたって膨大な量の研究努力が費やされてきた。

理論家や実験家は長らく、トポロジカルキュービットを作成するアイデアに興味をそそられてきた。トポロ …

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