「あなたはもうママですね」——ネット・デジタルが約束する「完璧な出産」の幻想
生命の再定義

How to have a child in the digital age 「あなたはもうママですね」
ネット・デジタルが約束する
「完璧な出産」の幻想

誰にも伝えていない妊娠を最初に祝福してくれたのは、ネット広告だった。ジャーナリストのアマンダ・ヘスは、自身の妊娠・出産経験を通じて、「完璧な出産」や「完璧な親」になることを約束するインターネットやデジタル技術にさまざまな矛盾や疑問を感じたという。 by Allison Arieff2025.03.27

ジャーナリストで文化評論家のアマンダ・ヘスが2020年に第一子を授かったとき、いち早くその事実を知ったのはインターネットだった。「周囲の人たちより多数のブランドの方が私の妊娠について知っていた」と、激流のように流れてきたターゲティング広告について彼女は書いている。「そのすべてが、私をママと呼んだ」。

インターネットは、完璧な親になるための無限の情報を約束した。しかし、妊娠7カ月を迎えたヘスが超音波検査のために病院を訪れたとき、すべては一変した。超音波画像に異常があったのだ。検査室で、結果について医師から説明を受けるのを待っていた彼女は、携帯電話を手に取りたいという衝動に駆られた。「馬鹿げたこと」ではあったが、と彼女は書いている。「パニック状態では、疑う余地がなかった。スマートにすばやく検索すれば、インターネットが救ってくれると思ったのだ。私は携帯の画面を通して人生を構築し、その回路に沿って世界を作り上げてきた。第二の人生も、そこで作ろうと考えたのだ」。医師は、赤ちゃんに疑われる症状を彼女に伝え、「グーグルで検索しないように」と告げた。

当然ながら、それでは彼女は止まらなかった。実際には、医師から診療情報を得れば得るほど、デジタル依存は深まっていった、と彼女は書いている。数週間の間、続々と検査を受けていった結果、彼女の息子は最終的にベックウィズ-ヴィーデマン症候群と診断された。「起こっていたことに対する思いや感情を整理するために、そして自分の体を外からコントロールする感覚を働かせるために、私が頼ったのは友人や医師ではなく、インターネットだったということに気づいた」。

しかし、企業や医療機関が人々の最も個人的な情報を得られる状況で、私たちはどうすれば、自分の体に対する主導権を維持できるだろうか。人々が、子どもを持つことについて、コミュニティにも家族にさえも助言を求めなくなり、代わりに絶え間なく情報が氾濫するインターネットを頼るようになったとき、何が起こるだろうか。本質的に人工的なものと、ネットユーザーが熱心に推進したがっている「自然な」方法との間には緊張関係がある。このインターネットの矛盾を、どう理解すればいいのだろうか。

新著『Second Life: Having a Child in the Digital Age(もう一つの人生、デジタル時代に子どもを持つこと)』(2025年、未邦訳)の中で、ヘスはこれらの疑問を探っている。また、より簡単で、より健康的で、より充実した子育てへの道を約束するアプリ、製品、アルゴリズム、オンライン・フォーラム、広告主などに関する自身の体験についても掘り下げている。健康になった第一子を2020年に、そして2022年にはもう一人の息子を家族に迎えたヘスは、この質問を聞く相手として最適だ。彼らが謳っている成果は本当に期待できるのだろうか。

以下のインタビューは電話と電子メールでのやり取りを要約し、編集したものだ。

——あなたは著書の中で、「(妊娠)検査薬のピンクの染料がインスタグラム、フェイスブック、アマゾンに広がっていくのを想像した。 全方位から、テック企業のインフラが私を取り囲もうとしていた。広告アルゴリズムが再測定し、ブランドのニュースレターがその列に組み込まれるのを感じることができた。ターゲティング広告を有害なものとして捉えるべきだと分かっていたが、そう感じる経験をしたことは一度もなかった」 と書いています。少し解説していただけますか?

妊娠前は、アドテク(広告テクノロジー)について、特にスマートであるとも、狙いが明確だとも感じたことはありませんでした。 ですから、インスタグラム広告がすぐさま私の妊娠に気づいたときには、少し驚きました。そして、広告テクノロジーがどのように機能し、その届く範囲がどれほど広大であるのか、正確には知らなかったということに気づいたのです。この件では特に不気味さを感じました。なぜかというと、当初、妊娠のことは配偶者を除いて秘密にしており、それについて私に話しかけてくるのが「インターネット」だけだったのです。高度に個別化された広告が届くようになり、親密さを感じるまでになりました。本当は逆のことが起こっていたわけですが。親密さは、裏を返せば企業によるプライバシーの破壊を表していました。診察予約について医師から返事が来る前に、妊婦向け広告が届いていました。

——あなたの著書は、生成AIが普及する前に書かれていますが、生成AIがどのように物事を変えるのか、考えたことがあるのではと推察します。「妊娠してすぐ、私は携帯に『妊娠したら何をすべきか』と入力した。今では広告主が独自の回答を提供するようになっている」と書かれていますね。人工知能(AI)の台頭と検索機能の劇的な変化は、現代に妊娠し、答えを求めてインターネットを頼る人々にとって何を意味するのでしょうか?

たった今、グーグルの生成AIウィジェットがどんな回答をするのか確認するために、「妊娠したら何をすべきか」と検索してみました。出てきたのは、診察のために病院の予約を取りなさい、喫煙をやめなさい、というおおむね常識的な助言です。続いて表示されたのは、アドテク・システムに深く組み込まれているオンライン子育て支援サービス「ベイビーリスト(Babylist)」と、高価な妊婦用サプリメントを販売するスタートアップ企業「ペレレル(Perelel)」のスポンサード・コンテンツでした。

つまり、AIを使用しているかどうかにかかわらず、検索エンジンが妊娠初期の女性に提供している情報は、特段役に立つものでも、有意義なものでもありません。

私が奇妙にも興味をそそられたのは、質問を投げると、まるで私とインターネットの間に互恵的な関係が存在するかのように、インターネットからの反応があったことです。その点でインターネットは私にとって、AIがこれらのシステムに組み込まれる前でさえ、一種の人工会話パートナーという同じ役割を果たしていました。そのせいで、携帯電話との間に、何かしらの関係があるように感じました。けれど実際には、収益化できる背景情報の準備が進んでいたにすぎなかったのです。

本の執筆を進めながら、チャットGPT(ChatGPT)のナレッジベースにコード化されている価値観や想定を理解しようと、いくつか妊娠関連の質問を入力したことがあります。 胎児の画像を要求したところ、それに応じて提供されたのは、派手で漫画のような、大きな目をした天使でした。ところが、産後の体のリアルな画像を求めると、回答の生成は拒否されました。それは本当に、私が著書で述べたことの延長線上にある出来事でした。テック製品の多くで、胎児のイメージは崇拝の対象とされています。その一方で、妊娠中や産後の体は、大部分がないもの同然の扱いを受けているのです。

ティックトック(TikTok)で、ある女性がすばらしい、けれどもとても悲し …

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