エスケ・ウィラースレフ(コペンハーゲン大学教授)は、モントリオールのレッドパス博物館で見学ツアーに参加していた。レッドパス博物館にはビクトリア朝時代の70万点の収蔵品からなる自然史コレクションがあり、その多くが木とガラスでできた棚に展示されている。「非常にさまざまなものがあります」と学芸員が説明するこれらのコレクションは、19世紀の旅行者や地質学ファンが土産物として興味を持ったものが集められている。訪れた人が見ることができるのは、絶滅したステラーカイギュウの脚の骨、侍の甲冑、クーガーの剥製、2体の人間のミイラなどだ。
古い骨や物体からDNAを採取する専門家として知られるウィラースレフ教授は、この寄せ集めの収集品の中に生物学的サンプルの可能性を見ていた。エジプト製の小さな調理鍋に目をやりながら、彼はツアーリーダーに尋ねた。「これらの鍋の中で穀物が見つかったことはありますか?」恐竜の骨格標本が本物の骨ではなく鋳型であることがわかった後、ウィラースレフ教授はこう口にした。「残念です。歯にタンパク質が付着していることがあるので」。
「私はいつも、『DNAを採取できる何かおもしろいものはないか』と考えているんです」と、ウィラースレフ教授はちらりと学芸員たちを見て言った。「しかし、歓迎はされません。なぜなら……」最近まで小型の電動ノコギリを持って旅していた彼は、手で前後にスライスするジェスチャーをしてみせた。
ウィラースレフ教授は、世界文化理事会から科学賞を受賞するためにモントリオールを訪れていた。この賞は、過去には弦理論家のエドワード・ウィッテンや、天体物理学者でクエーサーに関する研究で知られるマーガレット・バービッジが受賞している。ウィラースレフ教授は、「進化遺伝学における数々のブレークスルー」が認められて受賞することになった。その中には、2010年に古代人のゲノムを初めてほぼ完全に復元したことや、これまでに回収された最古の遺伝物質の記録を樹立したことも含まれる。グリーンランドの凍土から採取された240万年前の遺伝子から、この北極圏の砂漠がかつては森であり、ポプラやカバが生い茂り、マストドンが歩きまわっていたことを明らかにした。
これらの発見は、「古代DNA革命」と呼ばれる研究の一環であり、現代の生物のDNAを解析するための高速機器が、過去の標本の研究にも活用されるようになったことで実現した。ウィラースレフ教授が所属するコペンハーゲン大学グローブ研究所(Globe Institute)には、考古学者によって発掘された人骨から切り出された臼歯や耳の骨が詰まった冷凍庫がある。また、別の冷凍庫には湖底から掘削された堆積物コアが保管されており、ウィラースレフの研究チームは、それを用いてかつて存在していた生態系全体の痕跡を調査している。
グローブ研究所のような資金力のある研究機関のおかげで、「遺伝子のタイムマシン」はかつてないほど活発に稼働している。現在、スミロドンやホラアナグマ、バイキング、ポリネシアの航海者、そして多くのネアンデルタール人を含む数千人の古代人の遺伝子地図が作成されている。ネイチャー誌に掲載された2024年12月の集計によると、研究対象となった古代人の総数は1万人を超え、今も急速に増加している。また、DNAの供給源も増えている。研究者たちは、氷河期の女性のDNAをトナカイの歯の表面に吸収された形で発見することに成功した。さらに、洞窟の床を掘削することで、かつてそこに住んでいた人々や動物の痕跡を明らかにしている。
「私たちは文字通り、現在と過去のDNAの上を歩いているのです」。ウィラースレフ教授は語る。
古代の遺伝子は、すでに人類が世界中を移動してきた驚くべき歴史を明らかにしてきた。しかし、研究者たちは古代DNAを単なる過去を映す望遠鏡以上のものとして活用できることを期待している。彼らは、古代DNAが現代において具体的な実用性を持つことを望んでいるのだ。すでに、一部の研究者は糖尿病や自己免疫疾患といった現代病の起源を探る手がかりを求め、古代人のDNA解析を開始している。また、過去の遺伝子データを活用して、現存する生物を改変することを目指す動きもある。
たとえば、ウィラースレフ教授の研究センターでは、デンマークの製薬会社ノボ・ノルディスク(Novo Nordisk)を所有する財団から5億クローネ(6900万ドル)の助成金を受け、古代の気候下で生息していた植物のDNA変異を大麦、小麦、米などの食用作物のゲノムに組み込むプロジェクトを進めている。この計画は、気温の上昇や予測不能な気象に耐えられる作物、さらには生態系全体を再設計することを目的としており、すでに実施段階に入っている。昨年には、グリーンランドの気温が現在よりはるかに高かった200万年前に生息していた植物の遺伝情報を持つ大麦の新芽が、実験温室で発芽し始めた。
氷床コアから遺伝物質を探し始めたウィラースレフ教授は、古代DNA研究の次のフロンティアとしてこの可能性に注目している。歴史的好奇心を、地球を救う可能性のある研究へと発展させようとしているのだ。「食用作物が気候変動に適応できるように手を打たなければ、人々は飢えてしまうでしょう」とウィラースレフ教授は語る。「しかし、世界中の異なる気候レジームを過去に遡れば、有用な遺伝的適応が見つかるはずです。それは気候変動に対する自然の応答です。そして、それを活用できるか?私は、できると信じています」。
細切れと痕跡
1993年、スティーブン・スピルバーグ監督の大ヒット映画『ジュラシック・パーク』が公開される前日、科学者たちは琥珀の中に保存されていた1億2000万年前のゾウムシからDNAを抽出したと論文で発表した。この発見は、映画に登場するクローンのティラノサウルスを現実へと近づけたように思われた。当時、ある科学者はこう述べている。「遅かれ早かれ、恐竜の血液を食料としていた刺咬昆虫が入った琥珀が見つかるでしょう」。
しかし、その研究結果には誤りがあることが判明した。現代のDNAに汚染されていた可能性が高かったのだ。問題は、現代のDNAは古い歯や土壌サンプルに残っているものよりもはるかに豊富に存在していることである。遺伝子分子は常に微生物に分解され、水や放射線によって破壊されていく。そのため、時間が経つにつれてDNAの断片はどんどん短くなり、最終的には、それが人間のものかスミロドンのものかさえ判別できなくなるほど小さくなってしまうのだ。
「古代ゲノムを、大きな古い本だと考えてみてください。すべてのページが破り取られ、シュレッダーにかけられ、空中に放り出され、風とともに失われてしまったとします。残っているのは、ほんの数枚の紙切れだけです。さらに悪いことに、そこには古いものや新しいものを含め、別の本の切れ端も混ざってしまっています」。こう語るのは、科学史家のエリザベス・ジョーンズだ。ジョーンズの2022年の著書『こうして絶滅種復活は現実になる:古代DNA研究とジュラシック・パーク効果(原題:Ancient DNA: The Making of a Celebrity Science)』(原書房刊)では、研究者たちが汚染を極度に恐れていることが詳述されている。その汚染には、現代のDNAによる物理的なものもあれば、科学者たちが名声や「第一発見者」としての地位を求めるあまり、乏しいデータを誇張し、奇抜な物語を作り上げてしまうという比喩的なものも含まれる。
「私がこの分野に足を踏み入れたとき、上司に『それは非常にリスクの高い道だ』と言われました」とウィラースレフ教授は語る。
しかし、古い遺伝子の混在や断片化の問題は、2005年に米国企業が超高速次世代シーケンサーを初めて導入したことで、ほぼ解決された。これらの機器はもともと医療研究のために開発され、高速処理のために短いDNA断片を解析するよう設計されている。古代DNAの研究者たちは、この技術を応用すれば、保存状態の悪いサンプルでも解析できることを発見した。そして、ほぼ即座に彼らはホラアナグマやマンモスのゲノムの大部分を復元し始めたのだった。
古代人のゲノム解析がそれに続くまで、そう時間はかからなかった。当時、ウィラースレフ教授(まだ無名だった)は人骨を入手することができず、ましてやネアンデルタール人の骨など手に入るはずもなかった。なぜなら、保存状態の良いネアンデルタール人の骨は、すでにドイツで次世代シーケンサーを使った分析を進めていたスヴァンテ・ペーボ(マックス・プランク進化人類学研究所所長)によって押さえられていたからだ。しかし、ウィラースレフ教授は、グリーンランドの海岸にある4000年前のごみ捨て場(ミッデン)から採取された長さ約15センチの毛髪の存在を知った。この毛髪は、デンマーク国立博物館で何年もの間、ビニール袋に入れられたまま保管されていた。彼がこの毛髪について学芸員に尋ねると、それが人間のものだとは思うが、確証はないとの答えが返ってきた。
「まあ、つまりですね、グリーンランドに黒い直毛を持つ動物が他にいるでしょうか?」とウィラースレフ教授は言う。「いないですよね?」
その毛髪には保存状態の良いDNAが含まれていることが判明し、ウィラースレフ教授は2010年、ネイチャー誌に「絶滅したパレオ・エスキモー」のゲノムを記述した論文を発表した。このゲノムは、古代の人類のものとして初めてほぼ完全な形で復元されたものだった。分析の結果、この毛髪の持ち主はA+型の血液型を持つ男性で、おそらく褐色の瞳に太く黒い髪をしていたことがわかった。そして何よりも決定的だったのは、彼には子孫がいなかったという事実である。彼のDNAには、現在のグリーンランドに住むイヌイットには見られない独特の遺伝パターンがあったのだ。
その毛髪は、約4500年前にグリーンランドへ初めて到達したサッカク人と呼ばれる集団がかつて居住していた場所から採取されたものだった。考古学者たちはすでに、サッカク族が鳥用のダーツや槍を作る独特の技術を持っていたこと、そしてそれが突如として姿を消したことを知っていた。ただ、それは彼らが他の集団と合流したか、あるいはこの土地を去っ …