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米大規模バッテリー火災、高まる安全性への懸念
Nic Coury/Bloomberg via Getty Images
What a major battery fire means for the future of energy storage

米大規模バッテリー火災、高まる安全性への懸念

カリフォルニア州の発電所に設置された大規模なバッテリーが、火災で焼失した。詳細はまだ不明だが、周辺地域の環境に悪影響が残る可能性もある。今後、送電網につながる大規模バッテリーが増加することを考えると、安全対策を急ぐ必要がある。 by Casey Crownhart2025.02.18

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

数週間前、世界最大の送電網向けバッテリーを備えた「モスランディング火力発電所(Moss Landing Power Plant)」(カリフォルニア州)で火災が発生した。炎は数日で鎮火したものの、その影響は依然としてくすぶり続けている。

一部の住民は、火災の影響による健康被害を訴えており、環境調査では火災現場付近の水や土壌から汚染物質が検出された。ある団体は、発電所を所有する企業を相手取って訴訟を起こしている。

今回のような注目度の高い火災をきっかけに、バッテリーの安全性に対する懸念が高まるのは無理もない。しかし一方で、風力発電や太陽光発電などの変動性の高い電源が増えるにつれ、大規模なエネルギー貯蔵設備の重要性は今後さらに高まっていくだろう。

今回の火災で何が起こったのか、依然として残る懸念は何か、そしてエネルギー貯蔵業界の今後について見ていこう。

地元メディアの報道によると、モスランディングで火災が発生したのは1月16日の午後だった。最初は小規模だったが、すぐに施設内の大量のバッテリーへと燃え広がった。1000人以上の住民が避難を余儀なくされ、周辺の道路は封鎖された。また、広範囲の住民に対して屋内待機を求める緊急警報が発令された。

今回の火災で焼失したのは、モスランディングに設置されたバッテリー群のうち最も古いもので、2020年に稼働を開始した300メガワット(MW)のシステムだった。その後、追加のバッテリーが設置され、発電所全体の総容量は約750MWに達している。これは、標準的な石炭火力発電所と同等の電力を数時間にわたって送電網に供給できる規模に相当する。

発電所を所有するヴィストラ(Vistra)がニューヨーク・タイムズに提供した声明によると、被害を受けた建物(300MWのバッテリー群を収容する建物)内の大部分のバッテリーが焼失した。しかし、同社は正確な数を把握していない。作業員による目視検査が依然として許可されていないためである。

モスランディングのバッテリーが火災を起こしたのは今回が初めてではない。開業以来、すでに複数の事故が発生している。しかし、この発電所を研究しているサンノゼ州立大学のダスティン・マルヴァニー教授(環境学)は、今回の火災は「過去の火災よりもはるかに重大」だと指摘する。

住民たちは依然として潜在的な影響を懸念している。米環境保護庁(EPA)は、リチウムイオン電池の火災で発生する可能性のある有害ガス、フッ化水素の濃度を測定したが、カリフォルニア州の基準を超えるレベルは検出されなかった。しかし、火災直後のいくつかの調査では、発電所周辺の土壌からコバルト、ニッケル、銅、マンガンなどの金属の濃度が上昇していることが確認された。また、安全とされている水準ではあるが、周辺地域の飲用水にも金属類が検出された。

こうした検査のいくつかを引用し、住民団体は先週、ヴィストラを相手取って訴訟を起こした。訴えによれば、この発電所では過去にも事故が発生していたにもかかわらず、同社(および他の数名の被告)は適切な安全対策を講じてこなかったとされる。この訴訟の弁護団には、環境活動家として知られるエリン・ブロコビッチが加わっている。彼女は、1990年代にカリフォルニア州で石油・ガス設備による地下水汚染をめぐり、パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック・カンパニー(Pacific Gas & Electric Company)を相手取った訴訟で有名になった。この訴訟は後に、ジュリア・ロバーツ主演の映画にもなっている。

この訴訟、特にブロコビッチの関与は、重要な論点を浮き彫りにしている。それは、気候変動対策に貢献するテクノロジーであっても、依然として害となる可能性があり、その影響を真剣に受け止める必要があるという点だ。

石油・ガス業界は、長年にわたり地域の環境を破壊し、人々を危険にさらしてきた。その影響は、地域での事故や長期的な汚染として明白であるだけでなく、化石燃料の燃焼が気候変動を引き起こし、世界中に影響が及んでいる点にも表れている。

風力発電、太陽光発電、バッテリーなどの低炭素エネルギーは、気候変動という地球規模の問題を悪化させるものではない。しかし、これらの施設の多くは工業用地に設置されており、地域社会にも影響を及ぼす可能性がある。特に、今回のモスランディング火災のように事故が発生した場合、その影響は顕著に現れる。

今問うべきは、こうした懸念や訴訟が、業界に広く影響を及ぼすかどうかである。ある地元当局者は記者会見で、今回の火災を1979年にペンシルベニア州の原子力発電所で起こった悪名高い事故になぞらえて「この業界にとってのスリーマイル島事故」と呼んだ。原子力発電の転換点となったこの事故の後、 原子力発電への世論の支持率は急落した

電気自動車(EV)や、送電網上のエネルギー貯蔵用バッテリーの増加に伴い、バッテリーが関係する火災がニュースを賑わせ、注目を浴びるようになっている。例えば、 昨年、およそ27トンのバッテリーを積んでロサンゼルスの高速道路を走っていたトラックが横転し、バッテリーが爆発した事故や、ニューヨーク市で相次いでいる電動自転車用バッテリーの発火事故昨年フランスで起こったバッテリー・リサイクル工場での火災などが報じられている。

「バッテリーを使ったエネルギー貯蔵システムは複雑な仕組みです」とマルヴァニー教授は言う。「複雑なシステムは、故障のリスクも多岐にわたります」。

送電網向けの大規模な蓄電池に関して言えば、2020年にモスランディング火力発電所に設置されて以来、バッテリーの安全性が改善されているのはカナリー・メディアのジュリアン・スペクターが最近の記事で指摘している通りだ。バッテリーを新たに設置した多くの施設は、より安全とされている化学物質を使用している。また、新しいエネルギー貯蔵施設では大量のバッテリーをより適切に隔離して設置する傾向がある。そのため、今回のように小規模な火災が大規模な事故へと発展するリスクは低くなっている。

今回の火災については、特に出火原因など、まだ明らかになっていないことが多い。今後、送電網に接続されるバッテリー施設は増え続けると予想されるため、現在進行中の調査結果から学ぶことが重要になるだろう。

2023年時点で、世界の送電網にはおよそ54ギガワット(GW)相当の大規模バッテリー施設が接続されていた。各国が再生可能エネルギーの導入計画を予定通り進めれば、この数は2029年末までに10倍に増加する可能性がある。

エネルギー貯蔵は、送電網を変革し、気候目標を達成するための重要な手段である。この業界は急速に発展しており、安全対策もそれに遅れを取るわけにはいかない。


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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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