メタが脳タイピングを実現、「思考読み取り帽子」から8年で
マーク・ザッカーバーグが掲げた「脳から直接文字を入力できる」構想。消費者向けの機器開発は行き詰まったものの、基礎研究は継続し、巨大な装置として実を結んだ。人間の知性の本質を解明し、将来のAI開発への応用を目指す。 by Antonio Regalado2025.02.11
- この記事の3つのポイント
-
- メタは脳信号から文章を再構築できる深層学習システムを開発した
- このシステムは非侵襲的な手法で80%の精度を達成している
- メタは脳の仕組みを理解することでAIの発展につなげたいと考えている
2017年、フェイスブック(当時)は「思考を読み取る帽子」の計画を明らかにした。被って考えるだけで、文章を書けるようになるかもしれないというものだ。「脳から直接文字を入力できるようにするシステムに取り組んでいます」と、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)はその年の投稿でこの計画を披露していた。
その後、社名をメタに変更した同社は、実際に計画を実行した。ただし、完成した装置は0.5トンの重さがあり、価格は200万ドルにもなる。そして、研究室の外に持ち出されることはない。
それでも、メタの神経科学とAIの研究者たちが、タイピング中の人の脳を分析し、思考のみを手がかりにどのキーを押しているのかを特定することに成功したのは、大きな偉業だ。
メタの研究は、同社が投稿した2本の論文(こちらとこちら)およびブログ記事で紹介されている。特に注目すべき点は、磁気スキャナーを用いて頭蓋骨の外側から思考を測定し、それを深層ニューラル・ネットワークで処理したことだ。
「深層ニューラル・ネットワークは、確かなデータと組み合わせることで驚くべき洞察をもたらします」と語るのは、フォレスト・ニューロテック(Forest Neurotech)の共同創業者でCEOのサムナー・ノーマンだ。ノーマンCEOはこの研究に関与していないが、メタが「質の高いデータを集めるために非常に努力した」と評価している。
メタの「脳とAI」研究チームを率いるジーン=レミ・キング研究員によると、このシステムは熟練したタイピストが押した文字を80%の確率で正しく識別できる。脳信号から完全な文章を再構築するのに十分な精度だという。
フェイスブックが当初目指していた、消費者向けの「思考を読み取る帽子」やヘッドバンドは技術的な障害にぶつかり、4年後にこの計画は中止された。
しかしメタは、神経科学の基礎研究への支援を続けた。同社は現在、神経科学が人間のように学習し推論できる高度なAIの開発につながる重要な道筋だと考えている。キング研究員によると、パリを拠点とする彼の研究グループは、人間の脳から「知性の原理」を解明することを具体的な目標としているという。
「人間の脳の正確な構造や原理を理解しようとすることは、マシン・インテリジ …
- 人気の記事ランキング