見えない宇宙の地図描く——ルービン天文台が挑む、95%の「暗黒」の謎

How the Rubin Observatory will help us understand dark matter and dark energy 見えない宇宙の地図描く
ルービン天文台が挑む、
95%の「暗黒」の謎

世界最大のデジタルカメラを備えるルービン天文台が2025年後半に運用を開始する。同天文台の観測により、謎に包まれていた暗黒物質と暗黒エネルギーの正体が明らかになり、さまざまな理論モデルの妥当性を検証できるかもしれない。 by Jenna Ahart2025.02.07

私たちは宇宙についてどれくらい知っているのか、その割合を数字を示すことができる。5%だ。それは、宇宙空間に漂っているもののうちの、通常物質の割合である。惑星や恒星、銀河、そしてそれらの間にある塵やガスなどだ。残りの95%は暗黒物質(ダークマター)と暗黒エネルギー(ダークエネルギー)である。この2つの謎めいた存在は、私たちがその本質を明らかにできないことにちなんで、それにふさわしい名前が付けられている。

宇宙論研究者たちは暗黒物質を、銀河同士を結びつけている隠れた接着剤のような存在だとしてきた。暗黒エネルギーは正反対の役割を果たし、空間の構造を引き裂く。どちらも光を発したり、吸収したり、反射したりしないため、事実上目に見えない。そのため天文学者たちは、暗黒物質か暗黒エネルギーのどちらかを直接観測するのではなく、それらが残す痕跡を注意深く探し出す必要がある。

以前の研究で、この対立する2つの力の解明は始まっている。しかし、暗黒物質と暗黒エネルギーは未だに謎のベールに覆われたままである。肝心なのは、この2つはいったい何なのか、ということだ。

そこで、本誌が選んだ2025年版「ブレークスルー・テクノロジー10(世界を変える10大技術)」の1つ、ヴェラ・C・ルービン天文台の出番である。これまで作られた中で最大規模のデジタルカメラを誇るルービン天文台は、2025年後半に観測を開始した後、史上最高の解像度で宇宙を調査することが期待されている。そして、宇宙で繰り広げられている暗黒物質と暗黒エネルギーの間の戦いについてよりよく知ることで、この2つが何でできているのかということに関する既存のさまざまな理論を絞り込めるかもしれない。その方法を見てみよう。

暗黒物質の網を解きほぐす

1930年代にスイスの天文学者フリッツ・ツヴィッキーが、コマ星団と呼ばれる銀河群を研究した後、目に見えない力の存在を提唱し、「ドゥンクレ・マテリーエ」(ドイツ語で暗黒物質の意味)と名付けた。ツヴィッキーは、この銀河群があまりに速く移動しているため、すべての銀河の重力を合わせても移動を食い止められないことを発見し、まだ見つかっていない観測不可能な質量が存在していて、星団を1つにまとめているに違いないと確信した。

当初、ツヴィッキーの理論は非常に懐疑的な目を向けられた。しかし、1970年代に米国の天文学者ヴェラ・ルービンが、この説を大幅に補強するエビデンス(科学的根拠)を得た。ルービンは60個の個別の銀河の自転速度を研究した。そして、もし銀河が観測可能な質量しか持っていなければ、その構造を十分に保持できず、自転運動によって引き裂かれ、宇宙へ飛び出して行ってしまうであろうことを発見した。

ルービンの研究結果は、暗黒物質という考えを科学界に売り込むのに役立った。渦巻き銀河の猛烈な回転速度は、目に見えない力によってのみしか説明できないように思われたからだ。「必ずしも決定的な発見ではありませんでした」と、ジョンズ・ホプキンス大学の理論物理学者、マーク・カミオンコフスキー教授は言う。「しかし、ルービンは暗黒物質が必要だと考えたのです。そして他の人たちも、そう考え始めました」。

その後、数十年で、暗黒物質に関するエビデンスは強化される一方だった。しかし、その影響の背後に存在するかもしれないものを明らかにするのは、厄介であることが判明した。さまざまな素粒子が提案された。科学者の中には、暗黒物質が生み出しているとされるこの現象は、既存の重力理論に修正を加えることでも説明できる可能性があると推測する者たちもいた。しかし、望遠鏡、粒子衝突型加速器、地下検出器を使ったこれまでの探索では、犯人を特定できていない。

暗黒物質を調査するた …

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