EV、風力、予算——気候政策大転換、トランプ新政権3つの疑問
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Three questions about the future of US climate tech under Trump EV、風力、予算——気候政策大転換、トランプ新政権3つの疑問

トランプ新政権は、発足直後から数多くの大統領令を出すなど、活発に動き出した。パリ協定からの離脱など、気候変動対策への悪影響が懸念される中、今後の動向が注目される3つの疑問について紹介する。 by Casey Crownhart2025.02.04

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

ドナルド・トランプ大統領が正式に就任してからまだ2週間だが、新政権は矢継ぎ早に大統領令を発令している。

その一部は、気候変動や気候テックに大きな影響を与える可能性がある。例えば、トランプ大統領が最初に署名した大統領令のひとつは、気候変動問題に関する国際的な枠組みである「パリ協定」からの離脱の意向を示したものだ。

パリ協定からの離脱への道筋は明確だが、大統領令の影響がすべて明らかになっているわけではない。どこまでが対象となるのか、どの措置が覆される可能性があるのか、そして大まかに次に何が起こるのかについて、さまざまな憶測が飛び交っている。以下で、そのような議論の中で重要なものを一部紹介する。

全米各州は電気自動車に関する独自規制を定めることができるのか?

トランプ大統領が電気自動車(EV)のファンではないことは明らかだ。大統領就任初日に出された大統領令のひとつは、「電気自動車(EV)義務化 」の廃止を約束するものだった。

バイデン政権下の米国政府は、実際にはEVを義務化することはなかった。トランプ大統領は、ドライバーがEVを購入する際の補助金や、公共充電器の建設を支援する補助金など、国家的な支援プログラムを廃止しようとしている。しかし、これはほんの始まりに過ぎない。なぜなら、この大統領令はEVに関して独自規制を定めている州も狙っているからだ。

米環境保護庁(EPA)は、自動車排出ガス基準を通してEVに関する規制をいくつか定めているが昨年、カリフォルニア州を対象に連邦規制の適用を免除し、同州がより厳しい規制を定めることを認めた。同州は現在、2035年までに同州で販売されるすべての自動車をゼロエミッション車にすることを義務付けている。その後すぐに十数州がこれに追随し、今後10年以内にゼロエミッション車に移行するという目標を掲げた。この規制は、EVの需要がすぐに、しかも大量に発生するという自動車メーカーへの知らせとなった。

トランプ大統領は、連邦規制の適用免除と、カリフォルニア州がEVに関する独自の目標を設定する権利を狙っているようだ。おそらくこの件をめぐって法廷闘争が繰り広げられるだろうが、専門家でもどのように決着するか分からないという。

風力発電プロジェクトはどうなるのか?

風力エネルギーは、トランプ大統領が選挙運動中、そして大統領就任後最初の数日間に最も明確な標的としていたもののひとつだった。ある覚書で、新政権はすべての洋上および陸上風力発電プロジェクトに対する連邦政府の許可、貸与、融資を一時停止する意向を示した

この影響が及ぶのは、連邦政府が所有する土地や海域でのプロジェクトだけではない。通常、ほぼすべての風力発電プロジェクトは、連邦政府の許可を必要とするため、広範囲に影響が及ぶ可能性がある。

この大統領令が一時的なものであったり、法廷で認められなかったりしたとしても、すでに不安定な状況にあるこの分野への投資を冷え込ませるには十分かもしれない。昨年私が報じたように、米国ではすでにコスト高騰とスケジュールの遅れによって洋上風力発電プロジェクトは軌道から外れていた。記事の掲載以来、投資は減少している。政治的反発が強まっている現在、事態はさらに不安定になる可能性がある。

大きな疑問のひとつは、これによって既存のプロジェクト、例えばバイデン政権が退陣前に承認したアイダホ州の「ラヴァ・リッジ風力発電プロジェクト」などが、どれだけ遅れるかということだ。ある情報筋がワシントンポスト紙に語ったところによると、新政権はすでに交付された貸与や許可の取り消しを試みようとするかもしれないが、「そうするには権限が不十分かもしれない」とのことだ。

資金は?

トランプ政権はインフレ抑制法(IRA)と超党派インフラ法に基づいて合法的に確保されている資金の分配を一時停止するよう求める大統領令も発表した。これには、気候変動研究やインフラ整備のための数千億ドルも含まれている。

先週、ホワイトハウスが出した覚書で、連邦政府からの補助金や融資の大部分を一時停止する方針が示された。これは気候変動対策への支出にとどまらず、メディケイド(低所得者を対象とした医療扶助制度)のようなプログラムにも影響する可能性がある。この件が最初に報じられて以来、混乱が続いている。具体的にどんなことが影響を受けるのか、一時停止はいつまで続くのかについて、一致した意見はないようだ。1月28日夕方の時点で、連邦裁判所はこの命令を差し止める判断を下した

いずれにせよ、連邦政府の支出を保留、減速、停止させようとするこうした動きは、今後大きな争点となるだろう。気候テックへの影響については、新政権が議会ですでに割り当てられた予算をどこまで阻止できるのか、また阻止するつもりかが最大の問題だと思われる。政治的な影響が出る可能性もある。インフレ抑制法の資金の大半は、共和党寄りの州に流れている

11月の大統領選挙投票日直後に書いたように、トランプ大統領の復帰は、米国の気候政策の急転換を意味し、私たちはそれが急速に進んでいるのを目にしている。

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ディープシークの衝撃

中国のスタートアップ企業ディープシーク(DeepSeek)が人工知能(AI)分野に殴り込みをかけた。同社は「DeepSeek-R1」と呼ぶ新しい大規模言語モデルを発表した。このモデルはオープンAI(OpenAI)の「ChatGPT(チャットGPT)」で利用できる大規模言語モデル「o1」の性能を上回ると同社は主張している。このモデルは驚くほど効率が高いとされ、AI革命を推進するためには膨大な計算資源と電力が必要だという考えを覆すものだ。

詳しくは、本誌のチェン・ツァイウェイ記者による同社とそのモデルに関する記事と、 ジェームス・オドネル記者によるAI産業と各社によるエネルギーに関する主張の意味を考察した記事をご覧いただきたい。

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