巨大なスチールタンクは不要になるかもしれない。というのも、地下深くの岩石の力を借りて化学物質を製造しようと考えている科学者たちがいるのだ。
新たな研究により、肥料に不可欠な化学物質であるアンモニアが、地下の一般的な温度と圧力のもとで岩石から生成できることが明らかになった。この研究は1月21日、学術誌『ジュール(Joule)』に発表された。また、MITテクノロジーレビューは独占レポートとして、このアンモニア製造プロセスの商業化を目的とした新会社「アディス・エナジー(Addis Energy)」の設立を報じる。
アンモニアはほとんどの肥料の原料であり、現代の食糧システムに不可欠な存在である。また、大洋を横断する海運業などの産業では、グリーン燃料としての活用も検討されている。しかし、現在のアンモニア製造プロセスは大量のエネルギーを必要とし、気候変動を引き起こす温室効果ガスを多量に排出する(その排出量は世界全体の1%以上を占める)。今回の新たな研究により、地下の環境を活用することで、より環境負荷の少ない方法でアンモニアを生産できる可能性が示された。
「地球は化学物質の製造工場になり得るのです」。今回の研究論文の著者であるマサチューセッツ工科大学(MIT)のイウネティム・アバーテ助教授は語る。
現在の化学産業では、極めて高温・高圧の条件下で化学反応を起こす巨大な設備を用いてアンモニアを製造している。新たなアイデアは、業界にとって大きな変革をもたらす可能性がある。
アンモニアの主原料となるのは、窒素と水素である。アンモニアの製造に伴う二酸化炭素排出の大部分は水素の生成プロセスに起因するため、より環境負荷の低いアンモニア製造法を実現するには、水素の新たな生産方法を見つけることが重要だと、非営利研究機関であるロッキー・マウンテン研究所(RMI)のパトリック・モロイ主任研究員は指摘する。
最近、研究者や企業は地下に自然に存在する水素を発見している。鉄を多く含む岩石は水素を生成する反応を促進する性質を持ち、こうした天然の水素資源は、低コストかつ低排出の水素供給源となる可能性がある。
地中で発生する水素の産業利用はまだ発展途上だが、地下での水素生成を促進することで、このプロセスを加速させようとする研究者もいる。適切な岩石、熱、触媒があれば、大量の温室効果ガスを排出することなく、安価に水素を生産でき …