「非貴金属触媒の実用化でグリーン水素量産の壁に挑む」 孔 爽
MITテクノロジーレビュー「Innovators Under 35 Japan Summit 2024」から、理化学研究所所属の孔 爽氏のプレゼンテーションの内容を要約して紹介する。 by MIT Technology Review Japan2025.01.21
MITテクノロジーレビューは2024年11月20日、「Innovators Under 35 Japan Summit 2024」を開催した。Innovators Under 35は、テクノロジーを用いて世界的な課題解決に取り組む若きイノベーターの発掘、支援を目的とするアワード。5 回目の開催となる本年度は、国内外で活躍する35歳未満の起業家や研究者など10名のイノベーターを選出した。
その受賞者が集う本サミットでは、各受賞者が自らの活動内容とその思い、今後の抱負を3分間で語った。プレゼンテーションの内容を要約して紹介する。
孔 爽(理化学研究所)
みなさんはグリーン水素という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。水素は燃焼すると水に戻り、二酸化炭素を排出しません。そのため、水素はカーボンニュートラル実現の鍵になるとされています。
特に、再生可能エネルギーを用いて水から水素を取り出す水電解技術により生成される「グリーン水素」は、完全にクリーンな、理想的なエネルギー源として注目されています。しかし、この水電解技術の普及には大きな課題があります。それは触媒として使用されるイリジウムの希少性です。
イリジウムは、プラチナやニッケルの採掘の副産物としてしか得られず、年間生産量は7〜9トンに限られています。一方、国際エネルギー機関(IEA)の予測によると、2050年までに約1400ギガワットの水電解装置が必要とされ、それには約700トンのイリジウムが必要になります。この供給不足は、水素の大量生産における大きな障壁となっています。
この課題に対し、私たちは2つのアプローチで取り組んでいます。1つはイリジウムの使用量削減、もう1つは非貴金属材料の開発です。私は、これまで水電解への使用は不可能とされていた非貴金属材料に挑戦し、酸化マンガン触媒の開発に成功しました。マンガンはイリジウムと比べて100万倍も豊富に存在する元素です。私たちは酸化マンガンの耐久性を高める仕組みを解明し、非貴金属材料の実用化への道を開きました。
さらに、この酸化マンガンを基盤材料として、原子レベルで分散したイリジウム触媒を開発し、従来比95%以上のイリジウム使用量削減を達成しました。現在は日本企業と連携し、実用化に向けた取り組みを進めています。私は持続可能な社会の実現に向けて、水電解の研究をさらに発展させていきたいと考えています。
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- MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]日本版 編集部
- MITテクノロジーレビュー(日本版)編集部