原発への「追い風」は発電所新設を後押しするか?
米国では国民の支持率上昇、テック企業の参入、政府の税制支援など、原子力発電を取り巻く環境は好転している。だが、古い発電所の延命や再稼働を超えて、新しい原子炉の建設につながるのか。 by Casey Crownhart2025.01.22
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
最近、原子力発電を取り巻く雰囲気は良好だ。米国では国民の支持が高まりつつあり、官民の資金流入によって経済性は主要市場で向上している。また、大手企業がデータセンターへの電力供給手段として原子力発電に高い関心を寄せている。
こうした変化は、既存の原子力発電所にとって好ましいものだ。現在、出力増強、古い原子炉の寿命延長、さらには停止していた施設の再稼働といった動きが相次いでいる。これは気候変動対策にとっても良いニュースだ。原子力発電所は温室効果ガスの排出量が極めて少なく、安定した電力を供給できるからである。
私は最新の記事でこうしたトレンドをすべて取り上げ、2025年以降の原子力発電の展望について掘り下げて考察した。しかし、専門家たちと話す中で、ある核心的な疑問が浮かび続けていた。それは、「これらの動きだけで、新しい原子炉の建設につながるのか?」ということだった。
こうしたトレンドを詳しく見るために、世界で最も多くの(そして最も古い、平均運転年数42年以上の)原子炉を有する米国に注目してみよう。
近年、米国では、原子力発電への国民の支持が着実に高まってきた。ピュー研究所(Pew Research)の世論調査によると、現在、原子力発電の拡充を支持する米国人は約56%で、2020年の43%から増加している。
経済環境もまた、原子力発電にとって追い風となっている。2022年の米インフレ抑制法には、運転中の原子力発電所を維持するための税控除が含まれている。対象となる発電所は、一定の労働条件を満たせば、1メガワット時当たり最大15ドルを受け取ることができる(参考までに、ミシガン州のパリセード原発は、最後に通年稼働した2021年に700万メガワット時以上を発電した)。
巨大テック企業もまた、この業界を経済的に支援してきた。マイクロソフト、メタ、グーグル、アマゾンなどのテクノロジー大手はすべて、原子力発電を活用する契約を締結している。
こうした動きにより、既存の(あるいは最近閉鎖された)原子力発電所の需要が高まっている。ほんの数年前まで廃炉が検討されていた発電所が、今では運転期間延長の対象になっている。すでに閉鎖された発電所にも、再稼働の可能性が浮上している。
アップレート(Uprates) と呼ばれる技術を用いれば、既存の発電所の出力を増強できる可能性がある。これは、既存の機器や発電システムを調整することで、より多くの電力を生み出す手法だ。米国原子力規制委員会(NRC)は、過去20年間で合計6ギガワットのアップレートを承認してきた。現在の送電網に供給されている約97ギガワットの原子力発電のうちの小さな割合ではあるが、無視できない規模である。
どの原子炉の運転継続、再開、増強も、温室効果ガス削減にとっては朗報である。しかし、米国で原子力発電を拡大するには、既存施設の活用だけでなく、新しい原子炉の建設も必要だ。
今後数十年の間に多くの原子炉の廃炉が予定されているため、現在の原子炉数を維持するだけでも、新たな原子炉の建設が必要になる可能性が高い。果たして、古い発電所の稼働維持に向けた熱意は、新しい発電所の建設にもつながるのだろうか?
世界の多くの国では(中国は顕著な例外)、歴史的に原子力発電所の新設には莫大な費用と長い建設期間を要してきた。その代表的な例が、米国のボーグル原子力発電所である。この施設の3号炉と4号炉は2009年に建設が開始された。当初の稼働予定は2016年と2017年で、推定建設費用は約140億ドルだった。しかし、実際に稼働したのは2023年と2024年で、最終的な総工費は300億ドルを超えた。
これまでいくつかの先進技術が、原子力発電の課題を解決する手段として有望視されてきた。小型モジュール炉(SMR:Small Modular Reactor) は、建設費用や工期の短縮に貢献する可能性がある。また、次世代原子炉は、安全性と効率の向上を謳っており、より安価で迅速に建設できると期待されている。しかし、こうした革新的なプロジェクトを実現するには、多額の資金と、持続的な取り組みが必要となるだろう。
「今後4年間が、先進原子力の成否を決める分岐点になります」と、原子力エネルギーの利用を提唱する政策研究組織 グッド・エナジー・コレクティブ(Good Energy Collective) の共同創設者、ジェシカ・ロバリングは語る。
原子力発電の発展を促進する要因はいくつかある。まず、米国エネルギー省(DOE) の公的支援が挙げられる。税額控除に加え、実証プロジェクトに対する公的融資や助成金が提供されており、商業用発電所を実現するための重要なステップとなる可能性がある。
さらに、規制手続きの変更も支援要因となるかもしれない。2024年に成立した アドバンス法(Advance Act) は、米国原子力規制委員会(NRC) の体制を整理し、原子力プロジェクトの承認手続きをより効率的にすることを目的としている。現在、承認プロセスは最大で5年かかる場合があるが、この法律の施行によって短縮される可能性がある。
「NRCがより効率的で、効果的で、予測可能な規制機関へと近代化すれば、多くの商業プロジェクトにとって大きな後押しとなるでしょう。NRCがもはやイノベーションの障壁と見なされなくなるからです」と、非営利シンクタンク ニュークリア・イノベーション・アライアンス(Nuclear Innovation Alliance) の調査部長、パトリック・ホワイトは指摘する。今年中に、この法律による変化が現れると予想されるが、最終的な動向はトランプ政権の政策次第となる可能性がある。
次世代原子力技術の将来にとって、今後数年間は極めて重要な時期となる。エネルギーの脱炭素化という長期的な目標を考えた場合、今から2030年までの間に原子力業界がどのような進展を遂げるかが、今後の方向性を大きく左右することになるだろう。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。