11月、ノーランド・アーボーという名の若い男性が、自宅から72時間連続でライブ配信をすると発表した。この配信は、裏庭の紹介やビデオゲームのプレイ、母親との対面など、ある意味では典型的な内容のものだった。
この配信が典型的とは言えなかったところは、アーボーが四肢麻痺患者で、脳内には細い電極付きのワイヤーが埋め込まれていることだった。彼はこのインプラントを使ってコンピューター画面上でカーソルを動かしたり、メニューをクリックしたり、チェスをプレイしたりした。この脳インプラント「N1」は、イーロン・マスク率いる脳インターフェイス企業であるニューラリンク(Neuralink)と協力する脳神経外科医によって、昨年埋め込まれたものだ。
ニューロンの信号を読み取り、その信号を使ってコンピューターのカーソルを動かせることが実験室で初めて実証されたのは、20年以上も前のことだ。今回のアーボーのライブ配信は、ニューラリンクがWebページを回遊したり、ゲームをしたりといった日常的な能力を回復させるプラグアンドプレイ技術が実現し、同社が「デジタルの自由(Digital Freedom)」と呼ぶものを人々が手にできる日が大きく近づいていることを示している。
しかし、この技術はまだ商用化されていない。現在のところ、研究は小規模にとどまっており、機器がどのように機能し、どのように改良できるかを探る、文字通り実験の段階である。例えば、昨年のある時点で、アーボーの脳に挿入された多数の電極がついた「スレッド」の半分以上が所定の位置からずれてしまい、アーボーがN1をうまく操作できなくなった。ニューラリンクは急いで修正し、残りの電極を使ってアーボーがカーソルを動かせるようにした。
ニューラリンクにコメントを求めるメールを送信したが返答はなかった。この記事では、同社の公式声明を分析した結果に基づいて、2025年の同社の動向を予測してみた。
インプラント装着者の増加
ニューラリンクの脳インプラントを装着する人はどれくらい増えるのだろうか? イーロン・マスクは膨大な人数に達するという予測を崩していない。8月、マスクは、「すべて順調に進めば、数年以内に数百人がニューラリンクを装着しているだろう。もしかしたら5年以内に数万人、10年以内に数百万人になるかもしれない」とXに投稿した。
だが、実際のペースはそれよりもはるかに遅い。なぜなら、新しい医療機器の研究では、問題を確認するための観察期間を確保するため、初期の患者を数カ月間隔で試験するのが普通だからだ。
ニューラリンクは、これまでに2人の患者がインプラントを装着したことを公表している。前述のアーボーと、7月か8月にインプラント手術を受けた「アレックス」と呼ばれる男性である。
さらにマスクは1月8日のオンライン・インタビューで、インプラントを埋め込んだ3人目の患者がいることを明らかにした。「現在、3人の患者がニューラリンクのインプラントを装着しており、すべて(中略)順調に機能しています」とマスクは語っている。そして、2025年中に、「うまくいけば、20人から30人の患者に対応できるでしょう」と付け加えた。
大きな問題が発生しない限り、脳インプラントの移植ペースは加速すると考えれるが、おそらくマスクが語るほど速くはならないだろう。11月、ニューラリンクは米国での臨床試験リストを更新し、被験者数を(3人から)5人に増やした。また、カナダでも6人の被験者を対象とした臨床試験を開始した。この2つの試験だけを考えても、ニューラリンクは2025年末までに少なくともあと2件、2026年末までに8件のインプラント手術を実施することになる。
さらに国際的な研究が始まれば、同社は実験のペースを加速させる可能性がある。
制御性の向上
では、アーボーのカーソル操作 …