「世界を変える10大技術」の舞台裏、2024年の誤算とは?
MITテクノロジーレビューは、恒例の「ブレークスルー・テクノロジー10」を発表した。マット・ホーナン編集長が、選出理由と昨年の後悔を振り返る。 by Mat Honan2025.01.16
MITテクノロジーレビューの熱心な読者であれば、「ブレークスルー・テクノロジー10(世界を変える10大技術)」が、私のお気に入りの企画の1つであることはご存知かもしれない。このリストを完成させるために私たちは数カ月をかけ、どのテクノロジーがリストに値するかを徹底的に調査し、議論してきた。このリストでは、さまざまな分野で進行中のイノベーションを反映するような項目を、バランスよく掲載することを目指している。消費者向け技術、大規模な産業プロジェクト、生物医学の進展、コンピューティングの変化、気候問題への解決策、AIの最新動向などが含まれる。
本誌はブレークスルー・テクノロジー10を2001年から毎年発表しているが、テクノロジーの転換点を的確に指摘するという点においては、率直に言って良好な実績を残している。過去のリストを振り返れば、自然言語処理(2001年、リンク先は米国版)、ワイヤレス電力伝送(2008年、米国版)、再使用可能ロケット(2016年、米国版)といった項目が含まれており、時流を正確に捉えてきたことがわかる。一方で、Magic Leap=マジック・リープ(2015年、米国版)のように、時には見当違いや、予測が早すぎた例もある。
しかし、ブレークスルー・テクノロジー10の本当の秘密は、リストから外した技術にある。エンターテインメント産業を除けば、テック分野ほど誇大広告が目立つ業界はほかにないだろう。そのため、慎重すぎる判断が間違いになることは滅多にない。しかし、慎重すぎて失敗する場合もある。
昨年の例を挙げると、当初は「ロボタクシー」をリストに含める予定だった。自律運転車はもう何年も前から存在していたが、2024年は真のブレークスルーの年になりそうだった。クルーズ(Cruise)やウェイモ(Waymo)が複数の都市で有料顧客を運び、大規模な拡大計画を発表していた。だが、2023年秋、一連の事故(歩行者が車両の下敷きになり引きずられるという事件を含む)が発生し、クルーズはロボタクシーの全車両を運行停止にした。タイミングが悪いことに、ちょうどこの特集の仕上げ作業が進行中だったため、私はロボタクシーをリストから外す決定を下した。ただ、今にして思えばこれは間違いだった。
その後の2024年はロボタクシーにとっては驚異的な1年となった。ウェイモは、それまで限られたベータテスターのみに提供していたサービスを、サンフランシスコやロサンゼルスの一般市民に開放した。同社の車両は現在サンフランシスコの街中に広く浸透しており、ウーバー(Uber)やリフト(Lyft)のようなサービスと競合するだけでなく、観光名所的な存在にもなっている。乗車体験は驚くべきものであり、その新しさが一種の魔法のように感じられるのも無理はない。
代わりにリストに加えたのは、「Apple Vision Pro(アップル・ビジョン・プロ)」であった。この製品は本当に革新的なハードウェアであり、本誌は特にマイクロ有機LED(OLED)の技術に注目した。しかし、1年後の現在、市場での適合性を見いだせず、販売台数はアップルの予測を大きく下回っていると報じられている。10年以上この分野を取材してきた私としては、Vision Proは(2015年のMagic Leapのような幻影ではなく)画期的なデバイスであると今でも主張したい。しかし、2024年が「ブレークスルーの年」ではなかったのも事実である。私の非を認めよう。
それでもなお、今年のリストには驚きと考えさせられる要素が詰まっていると確信している。4次元の観測を可能にする新たな天文台、インターネット検索の新たな方法、そしてロボタクシーまで、多様なテクノロジーを取り上げた。今年のリストが、読者にとっても興味深い内容となることを願っている。
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- マット・ホーナン [Mat Honan]米国版 編集長
- MITテクノロジーレビューのグローバル編集長。前職のバズフィード・ニュースでは責任編集者を務め、テクノロジー取材班を立ち上げた。同チームはジョージ・ポルク賞、リビングストン賞、ピューリッツァー賞を受賞している。バズフィード以前は、ワイアード誌のコラムニスト/上級ライターとして、20年以上にわたってテック業界を取材してきた。