「ニュートリノ研究で基礎科学の価値を体現」久保田しおん
MITテクノロジーレビュー「Innovators Under 35 Japan Summit 2024」から、ハーバード大学/マンチェスター大学所属の久保田 しおん氏のプレゼンテーションの内容を要約して紹介する。 by MIT Technology Review Japan2025.01.09
MITテクノロジーレビューは2024年11月20日、「Innovators Under 35 Japan Summit 2024」を開催した。Innovators Under 35は、テクノロジーを用いて世界的な課題解決に取り組む若きイノベーターの発掘、支援を目的とするアワード。5 回目の開催となる本年度は、国内外で活躍する35歳未満の起業家や研究者など10名のイノベーターを選出した。
その受賞者が集う本サミットでは、各受賞者が自らの活動内容とその思い、今後の抱負を3分間で語った。プレゼンテーションの内容を要約して紹介する。
久保田 しおん(ハーバード大学/マンチェスター大学)
素粒子物理学者として、宇宙の最小単位である素粒子の研究に携わっています。水素原子やDNAといった微小な物質も、さらに分割が可能で、これ以上小さくできない限界まで分解したときに残るのが素粒子です。この多様な宇宙を再現するには、さまざまな種類の素粒子が必要であり、その一つが「ニュートリノ」です。
ニュートリノの研究は、宇宙の発展の歴史の中で私たちがなぜ存在できるのかを理解する手がかりとなります。しかし、その検出は非常に困難です。私が携わっている「Deep Underground Neutrino Experiment(DUNE)」では、ニュートリノが検出器と反応した際に生じる荷電粒子を検出することで、ニュートリノを観測しています。
特に、太陽や超新星爆発から放出されるニュートリノには、星の誕生と死を理解する上で重要な情報が含まれています。しかし、これらのニュートリノは非常にエネルギーが低く、検出が困難でした。そこで私たちのグループは、新世代型のピクセル型荷電粒子検出デバイス「Q-Pix」を開発しました。このデバイスにより、従来検出が難しかった低エネルギーのニュートリノの感知が可能になり、さらにデータ量を100万分の1に抑えることにも成功しました。
Q-Pixは基礎科学のために開発された技術ですが、荷電粒子の検出は身の回りでも使われており、タッチパネルや放射線モニタリングなど、日常生活におけるさまざまな応用可能性を秘めています。また、GPS、がん検査に使われるPET(陽電子放出断層撮影)スキャン、World Wide Webも、基礎研究から生まれた技術です。社会の利便性だけでなく、私たちの日常生活という枠組みを加えた視点で研究に取り組む、基礎科学ならではのビジョン、ミッションがあるのではないか。ニュートリノ研究とQ-PIXを通じて、そのような価値を体現できる研究者になりたいと考えています。
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- MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]日本版 編集部
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