シアトル郊外に新設された工業施設からは、未来のテクノロジーの香りがする。この施設では、ヒトや家畜の排泄物を安全に処理し、全米の農地で逼迫しつつある農業に不可欠な栄養分をリサイクルしている。
1ヘクタール弱の工場内には、かすかなアンモニア臭が漂う。巨大な回転スピンドルが、地元の下水処理施設から運び込まれた高温の汚泥を、あるエンジニアが「うんちクレープ(poop crepes)」と呼ぶものに加工している。焼成されたバイオ物質は、特大のスクレーパーを使ってコンベアベルト兼乾燥機に乗せられ、こうして大量の無菌肥料が得られる。この排泄物処理技法は、初期工程で生み出された圧縮蒸気を再利用するため、消費電力を95%削減できる。このプロセスからは乾燥肥料のほかに、ほぼ純粋なアンモニアと水が得られる。
「ヴァーカー(Varcor)」と呼ばれるこのシステムを設計したのは、シアトルのエンジニアリング企業セドロン・テクノロジーズ(Sedron Technologies)だ。同社はサンフランシスコに本社を置くジェネレート・アップサイクル(Generate Upcycle)の子会社である。全米の下水処理施設は、高温、堆肥化、それに圧力鍋のようなデバイスを利用して、残留バイオマスを豊かな肥料やマルチ、ほかには、「ブルーム」や「タグロー(TAGRO:タコマ・グロー(Tacoma Grow)の略称)」といった商品名の土壌添加剤に加工している。中には別の処理工程を通じ、下水からリンを抽出している施設もある。リンは植物に必須の栄養素であり、私たちの食事に豊富に含まれている。リンを多層加工して丸いペレットに成型する手法は、真珠作りに少し似ている。このテクノロジーを開発した、セントルイスに本社を置く企業オスタラ(Ostara)は、生産したスローリリース肥料(遅効性の肥料)を農家に販売している。
携帯用トイレでさえ栄養回収の手段になりうる。バーモント州のリッチアース・インスティチュート(Rich Earth Institute)やウェイステッド(Wasted)、スウェーデンのサニテーション360(Sanitation360)ABといった、「ピー(尿)サイクリング」企業グループが窒素回収の手法を開発しているのだ。タンパク質豊富な食事には多量の窒素が含まれるため、尿からも便からもリサイクルが可能だ。
ヒトやほかの動物の排泄物からの肥料づくりには、長く興味深い歴史がある。こうした方法で飛び抜けて肥沃な土壌を育てる伝統は、全世界の先住民文化に見られる。こうしたシステムは欧米文化では廃れて久 …