標高2700メートルに位置するチリのセロ・パチョン山頂では、空気は澄み、乾燥している。美しい星空を隠す雲はほとんどない。ヴェラ・C・ルービン天文台(Vera C. Rubin Observatory)はここで、3200メガピクセルのデジタルカメラの運用をもうすぐ開始する。自動車と並ぶ大きさの史上最大のカメラを設置し、夜空全体の地図を3日ごとに新しく作成しようというのだ。
ひと晩で20テラバイトのデータを生成するルービン天文台は、太陽系や天の川銀河、宇宙の大規模構造に関する詳細を記録する。それは、研究者が宇宙の歴史と現在の進化を理解するのに役立つはずだ。同天文台が捉えることになるのは、超新星と呼ばれる恒星の爆発や、ブラックホールによる星の破壊、そして地球の近傍を通過する小惑星など、急速に変化する事象だ。ルービン天文台の発見は、ダークマターやダークエネルギーの性質といった根本的な謎の解明に役立つだろう。それら2つは、直接観測されたことはないが、宇宙の物体がどのように結合し、どのように引き離されるかに影響を与える現象だ。
ルービン天文台は、全天サーベイヤー(空全体を繰り返し記録、または観測する装置)の輝かしい系譜に連なる最新鋭装置である。今年後半に、その最初の科学画像が公開される。ルービンが一度の露出で写し取る10万個の銀河の大部分は、他の観測装置では見ることができない。四半世紀の歳月をかけて完成したこの天文台は、我々の理解を、宇宙の隅々にまで広げようとしている。
「ルービン天文台に関して、興奮していない天文学者はいないでしょう」。スタンフォード大学の銀河考古学者、クリスチャン・アガンゼ博士は言う。
ルービン天文台が最初に提案されたのは2001年だ。当時は、「大型シノプティック・サーベイ望遠鏡(Large Synoptic Survey Telescope:LSST)」と呼ばれていた。宇宙において物質の85%を占める正体不明のダークマターを調査する機器の初期構想から発展したのがLSSTである。LSSTはその後、より広範な科学的疑問に焦点を当て、夜空のカタログを作成するために10年かけて再設計された。そして5年前、故ヴェラ・ルービンに敬意を表して改名された。ヴェラ・ルービンは、1970年代から80年代に、ダークマターの存在を支持する最も有力なエビデンス(科学的根拠)のいくつかを発見した米国人天文学者である。
運用期間中、ルービン天文台はその鋭い眼を天に向け、満月40個分を超える範囲を30秒間撮像する。その後、新しい領域へ移動して別の写真を撮影し、およそ3晩ほどで同じ場所に戻っ …